研究実績の概要 |
本研究では、発生・発達期に生じるようなオートファジーが、どのように成体型造血幹細胞の成立に寄与するのか、生理的意義を明らかにすることを目標とした。まず、薬剤誘導的Atg5欠損マウスの造血組織を解析したところ、8-12週齢では、顕著な幹細胞集団への影響は認められないこと、一方、胎児期より血液細胞においてAtg5を欠損(Atg5flox/flox;vav-Creマウス)させることにより、その後の成体では、顕著な幹細胞の機能低下と数の減少を伴う造血不全が生じることを確認した。このことから、造血幹細胞の維持におけるオートファジーの役割は、これまで考えられてきた成体型造血幹細胞というより、それまでの発生・発達時期での重要性が大きいのではないかと考えられた。そこで、Atg5flox/flox;Vav1-Creマウスの造血幹細胞を用いて、E13.5, 18.5,P0, P7, P21での移植実験を行い、どの段階でオートファジーが重要であるか検討した。その結果、出生1週間以降に明確な移植能の低下が認められるものの、それ以前では顕著な低下は認められないこと、一方で、生後3週齢以降では極めて重篤な幹細胞機能障害が認められたことから、発生・発達段階でオートファジーの機能不全が、その後の成体型幹細胞の成立(発生)に大きく影響すると考えられた。今後、造血幹細胞の発生におけるオートファジーの新たな分子制御機構の解明に大いに寄与するものと期待される。
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