公募研究
リソソームはオートファジー経路、エンドサイトーシス経路の両者において機能するオルガネラであり、その膜ダイナミクスには共通するメカニズムが存在している。これまでの研究で、原腸観入期のマウス初期胚ではミクロオートファジーとしてしられるユニークなオルガネラ融合が起き、そのはたらきによって組織構築のキーとなる細胞間情報伝達が制御されていることがわかっている。本研究では、リソソームの膜融合因子HOPS/CORVETのサブユニットVps18/Vam8の欠失マウス胚の表現型から、ミクロオートファジーによる初期発生制御の実態をあきらかにすることとした。マウスVam8(mVam8)欠損胚は、胚盤胞期まで発生できるが、その一日後、胚体外外胚葉を形成できずに発生を停止する。また、mVam8欠失細胞ではmTORC1から下流へのシグナル伝達が起きない。条件的遺伝子破壊が可能なmVam8flox繊維芽細胞を観察し、Akt/PI3K経路からのmTORへのpositiveな制御は正常に起きているが, mTORC1の下流の4EBP1, p70S6Kへの情報伝達が起きないことがしめされた。mTORの活性がリソソーム膜上のmTOR complex1形成が必要であることがしられている。mVam8欠損胚では初期エンドソームと後期エンドソームの中間段階のオルガネラが蓄積しており、この異常なオルガネラではmTORC1の活性化ができないと考えられる。これらの結果、胚体外外胚葉の分化と維持に、オートファジーを司る中心的なmTOR情報伝達経路が必須であることを明らかにした。
3: やや遅れている
mTORC1シグナルが胚体外外胚葉構築にどのように関わっているのか、は繊維芽細胞での解析ではわからない。初期胚における分化制御のメカニズムをあきらかにするため、母胎由来のmVam8を欠失させた場合の表現型をあきらかにすることが必要となり、卵母細胞特異的遺伝子破壊を計画した。ところが当初導入した卵母細胞特異的Cre遺伝子(Zp3-Cre)が単独でも初期発生に阻害的に作用したため、統計処理に可能な数の初期胚を得ることができないことがわかった。この問題を克服するため、新たに異なるZp3-Creトランスジェニックラインの導入を余儀なくされ、複合遺伝子構成をもつマウスの作成に時間がかかった。そのため、着床時の表現型の解析が遅れている。
新たなZp3-Creラインを用いた卵母細胞でのmVam8遺伝子破壊によって、mVam8遺伝子産物を欠く卵は、野生型精子との受精で正常に発生し、産仔をあたえるので、zygoticな遺伝子発現でレスキューされることが明らかになった。マウスコロニーの確立に時間を要したため当初の計画より遅れたが、現在は順調に研究が進んでおり、さらには、mVam8遺伝子産物を欠く卵とmVam8欠失精子との受精から生じる初期胚は胚盤胞形成まで進むことがわかりつつある。今後、受精時にmVam8遺伝子欠損となる初期胚の発生過程との差異を、特に胚体外外胚葉維持に関与するCdx2, Elf5などの発現・細胞内動態に注目して詳細に解析する。
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