公募研究
これまで、肝細胞特異的Rubicon欠損マウスでは高脂肪食摂取による脂肪滴蓄積が軽減していることを報告してきた。本年度は臓器間相互作用に焦点を当てて、肝臓における脂肪滴蓄積軽減の機序を検討した。Rubicon欠損マウスは高脂肪食摂取により肝重量が低下する一方で内臓脂肪重量が有意に増加していた。肝臓において分解された脂肪滴内の脂質が肝外に放出され内臓脂肪蓄積に至っている可能性が示唆された。次に、高脂肪食摂取における脂肪組織のオートファジーを検討した。高脂肪食摂取マウスの内臓脂肪では、Rubicon蛋白の減少と共にLC3-Ⅱの増加とp62の蓄積減少を認め、オートファジー亢進を示唆する結果であった。Leupeptinを用いたIn vivo flux assayにより、肝臓ではオートファジーが抑制傾向であるのに対し、脂肪組織では亢進傾向にあった。マウスより採取した脂肪組織をライソソーム阻害薬であるクロロキン処理し、Ex vivoの状態での脂肪分解を評価したところ、クロロキン処理した脂肪組織では有意に脂肪分解が抑制された。そこで、成熟脂肪細胞特異的Atg7欠損マウスを作成し検討を行った。本マウス内臓脂肪・皮下脂肪・褐色脂肪組織のいずれの脂肪組織においてもAtg7のノックアウトを認め、LC3-Ⅱの消失とp62の蓄積を認めたことから、本マウスの各脂肪組織においてオートファジーが抑制されていることがわかった。内臓脂肪と皮下脂肪における褐色脂肪マーカーであるUcp1, Cidea, Cox8bの発現を見たところ、上昇は見られず、白色脂肪細胞の褐色化は生じていないと考えられた。また、脂肪分解酵素であるATGLやHSLの発現にも変化を認めず、脂肪分解リパーゼの発現もコントロールと同等であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
肝細胞特異的Rubicon欠損マウスは高脂肪食摂取時にオートファジーによる肝内の脂肪滴分解の促進により、肝内脂肪蓄積の減少と内臓脂肪量増加を来していることが明らかになった。また、高脂肪食摂取時のマウスの内臓脂肪ではRubicon低下を伴うオートファジー亢進がみられること、脂肪組織のオートファジーは脂肪分解に影響することが示された。また、成熟脂肪細胞特異的Atg7欠損マウスの脂肪組織は各脂肪組織においてオートファジーが抑制されているが、褐色脂肪マーカーの上昇やリパーゼの発現変化は認めなかった。RubiconがNAFLDにおける新たな治療ターゲットと成り得ることに加え、オートファジーが臓器間の脂肪蓄積制御に関わっている新たな知見が得られる可能性があり、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
平成28年度の結果をもとに以下の検討を行う。1)脂肪細胞における脂肪酸負荷のオートファジーへの影響:マウス脂肪細胞株3T3-L1や、マウスの皮下脂肪や内臓脂肪から採取した脂肪前駆細胞を分化させた状態で、脂肪酸を投与することによるオートファジーの変化と、オートファジーの変化が脂肪分解に与える影響につき検討する。2)肝細胞と脂肪細胞におけるRubiconの脂質代謝に与える影響:肝細胞株や脂肪細胞株において、siRNAによるRubicon knockdownが脂肪滴蓄積や脂質合成系遺伝子発現に与える影響につき検討する。また、脂肪滴を抽出して脂肪滴内の中性脂肪・コレステロールを解析することにより、Rubicon欠損による脂肪滴の構成成分の変化の有無を検討する。3)マウス脂肪組織の高脂肪食摂取時のオートファジーの変化の検討:高脂肪食摂取マウスの内臓脂肪でオートファジー亢進が示唆されたため、これが皮下脂肪や褐色脂肪組織においても同様の事が生じているかを検討する。また、高脂肪食摂取マウスの脂肪組織で脂肪分解が亢進しているかどうかを検討する。4)成熟脂肪細胞特異的Atg7欠損マウスの高脂肪食摂取における表現型の検討:本年度に作成した成熟脂肪細胞特異的Atg7欠損マウスに高脂肪食を摂取させた状態における表現型を検討し、脂肪組織におけるオートファジー抑制が脂質代謝に与える影響と、肝脂肪蓄積に与える影響につき検討する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Hepatology
巻: 64 ページ: 1994-2014
10.1002/hep.28820
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160913_1