公募研究
被子植物の葯のタペート細胞は、花粉成熟期にプログラム細胞死(PCD)が誘導され、花粉への栄養供給を担う。イネの花粉成熟期において、タペート細胞内でオートファジーが誘導され、オートファジー欠損変異体Osatg7-1では、脂肪滴の分解・タペート細胞のPCDの不全や、花粉成熟不良を示し、その結果不稔となる。花粉成熟過程のオートファジー動態・PCD欠損変異体の表現型を解析し、タペート細胞のPCD制御におけるオートファジー誘導、活性酸素種(ROS)の積極的生成、転写制御ネットワークの相互関連性について解析した。タペート細胞の運命を決定する転写因子が、一部のATG遺伝子の発現制御及びオートファジー活性の制御に関与する可能性が示唆された。タペート細胞におけるROS生成を定量的に測定する実験系の確立を進めた。またROS生成酵素がタペート細胞におけるオートファジーやPCDの制御に関与しているとの作業仮説を立て、ゲノム編集法により、ROS生成酵素変異体の作出とその表現型の解析を進めた。オートファジー欠損変異体は、栽培条件によっては低頻度で稔実するが、その種子は、澱粉蓄積異常を示すくず米となることを見出した。オートファジーが植物の胚乳形成に関与するとの、これまで全く未解明の新たな仮説を検証するため、変異体におけるタンパク質や澱粉の解析を進めた。オートファジー欠損変異体は、病原性真菌いもち病菌に対する耐病性が低下することを見出し、そのメカニズムの解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
当初予期しなかった方向にも研究が進展し、イネ、そして植物界全体におけるオートファジーの新たな制御機構の解明が期待される。一方、同一の遺伝子型でも生育環境によって表現型が異なることも明らかになり、生育環境を一定に制御することの重要性が明らかとなった。
(1)イネのタペート細胞におけるオートファジー動態・脂質制御機構の解析:花粉成熟期におけるタペート細胞のプログラム細胞死(PCD)のイメージング解析を進める。タペート細胞のPCDが不全となる転写因子欠損突然変異体を、イメージング解析し、PCD誘導転写制御ネットワーク、活性酸素種(ROS)積極的生成系、オートファジーの相互関係の解析を進める。PCDの分子機構に迫り、花粉成熟過程でタペート細胞において誘導されるオートファジーが、接合子(花粉)に供給される栄養源の代謝回転及び、PCD誘導の双方に関与しているとの作業仮説を検証する。タペート細胞特異的な細胞死不全は、農学的に低温・高温などのストレスにより誘導されるイネの不稔の最も重要な原因とされて来たが、その分子機構は全く不明である。これまでに得られた状況証拠から、ストレスによる作物の低下の原因の一つとして、オートファジー不全が関与しているとの作業仮説を着想した。低温・高温ストレスにより不稔となったイネにおけるオートファジー動態を解析し、ストレスにより誘導される不稔や細胞死不全にオートファジーが関与する可能性を検証する。(2)イネのオートファジ一欠損変異体を用いた、植物免疫におけるオートファジーの役割の解析:オートファジー変異体において、いもち病菌に対する耐病性が低下する可能性が示唆された。他の病原体に対する耐病性の解析も進める。植物免疫のさまざまな応答反応のうち、何がオートファジーの影響を受けているかを解析する。(3)イネの胚乳形成におけるオートファジーの役割の解析:わずかながら稔実したイネのオートファジー変異体において、種子の澱粉粒の形成が異常となることを見出した。種子の澱粉粒は、米の品質に関与する重要形質であり、胚乳形成におけるオートファジーの役割の解析を進める。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 7件、 招待講演 6件) 図書 (3件) 備考 (1件)
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