piRNAは、相補的な配列を持つ遺伝子の発現を抑制する生殖細胞特異的な小分子RNAである。ショウジョウバエをモデルとした解析から、piRNAのほとんどはレトロトランスポゾンの発現抑制を担っているが、約20%のpiRNAはタンパク質コード遺伝子の3'非翻訳領域に由来する標的未知のpiRNAであることがわかっている。これまでに、traffic jam (tj) 遺伝子の3'非翻訳領域にpiRNA生合成に必須の100塩基長のシス配列があることを明らかにした。本研究では、piRNA生合成経路による翻訳効率への影響の有無を検証した。ショウジョウバエ卵巣体細胞由来培養細胞株OSCにおいて、3'非翻訳領域にpiRNAをコードするtjをモデルとして解析を行ったところ、piRNA生合成経路はmRNA半減期に影響しないことがわかった。しかし、mRNAの分解を引き起こすpiRNA生合成経路が翻訳効率の安定化に寄与していることが示唆された。3'非翻訳領域にpiRNAをコードするmRNAは、ArmiやYbなどのpiRNA生合成因子と結合することで、piRNA生合成経路に誘導される。piRNA生合成因子は3'非翻訳領域の分解を引き起こす一方で、同じ3'非翻訳領域に結合して翻訳抑制に作用するそのほかのRNA結合タンパク質の結合に干渉することで、翻訳効率の安定化に寄与するという仮説を立てた。以上により、piRNA生合成経路が翻訳効率に関与するエピゲノム制御機構として機能していることが示唆された。同一の3'日翻訳領域に存在する複数の制御エレメント間の相互作用に関して、これまでに詳細な解析は行われていない。OSCにおけるpiRNA生合成経路をモデルとして、新たな研究分野の開拓につながる可能性がある。
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