研究実績の概要 |
平成28年度には多能性関連転写因子Pou5f1 (OCT4), Sox2, Nanogの各アレルのC末端側にタグを付与することを目的とし、各遺伝子の終止コドン前後の約1Kbを含むターゲティングベクターを構築した。またCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集を行うためガイドRNAを設計し発現ベクターを複数構築した。ルシフェラーゼを用いたSingle strand annealing(SSA)アッセイで、良好な活性を示すガイドRNAの組み合わせを同定した。また、これら多能性因子が始原生殖細胞において潜在的多能性を形成・維持する基盤の一つと考えられるゲノムワイドなDNAメチル化動態を解析し、ヒストン修飾とのクロストークを解明して発表した。 多能性関連転写因子(OCT4, SOX2,NANOG)アレルへのタグ挿入したノックイン胚性幹細胞(Embryonic stem cells; ES細胞)の作出によって、同一のタグを付与した各転写因子を、内在的な発現量と制御様式を保ったまま発現する細胞株を作出することが期待される。これを用いることで申請者が確立した微量試料からのクロマチン免疫沈降―次世代シークエンス法(微量ChIP-seq法)による結合部位の同定が可能になると考えられる。また、同一のタグを用いることで、ChIP-seqの定量解析において、一般的に避けがたい問題である、抗体による免疫沈降効率の差異を避けることが出来る。このことで、それぞれの転写因子が、それぞれの多能性状態(ES細胞における「ナイーブ」な多能性、EpiLCにおける「プライム/フォーマティブ」な多能性、始原生殖細胞における「潜在的」な多能性)において、どのような効率でゲノムに結合するのかという全体像を得ることができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
構築したターゲティングベクターとガイドRNA/Cas9発現ベクターを、Blimp1-mVenus/Stella-ECFP 蛍光レポーター(BVSC)をもつES細胞株に導入し、OCT4, SOX2, NANOGへのタグ挿入を行う。タグ付与されたES細胞を複数株樹立し、エピブラスト様細胞(Epiblast-like cells; EpiLC)および始原生殖細胞様細胞(primordial germ cell-like cells; PGCLCs)を誘導し、申請者の開発した微量ChIP-seq法を用いて各転写因子の結合部位を定量的に同定する。最近、EpiLCへのNANOGの過剰発現によりマウスPGCLCを誘導することが出来たという報告や、霊長類PGCやPGCLCにおいてはSOX2が発現していない一方で、SOXタンパク質群の別のグループに属するSOX17が重要な役割を果たすという報告がなされている。これらの報告に関連して、各転写因子が潜在的多能性の形成や維持に寄与する機構は興味深い。各転写因子の結合部位の定量評価においても、特にNANOGやSOX2の発現量変化に関連づけた解析を行いたい。
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