研究領域 | 生殖細胞のエピゲノムダイナミクスとその制御 |
研究課題/領域番号 |
16H01217
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 新平 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80740795)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / 始原生殖細胞 / ペリセントロメアヘテロクロマチン / メジャーサテライト反復配列 |
研究実績の概要 |
染色体のセントロメア周辺の領域はペリセントロメア領域と呼ばれ、マウスではメジャーサテライト反復配列が存在している。通常の体細胞ではペリセントロメア領域は強固に凝集してヘテロクロマチン構造を形成し、反復配列の発現が抑制されている。一方、卵子や精子の幹細胞である始原生殖細胞では、このペリセントロメア領域において、ヘテロクロマチン領域には通常認められない5-ヒドロキシメチル化シトシンが生じていることを見出した。始原生殖細胞ではペリセントロメアのヘテロクロマチン構造が変換されているのではないかと考え、ヒストン修飾パターンを解析したところ、体細胞のペリセントロメアには存在しないヒストンH3リジン27番目のトリメチル化(H3K27me3)が検出された。このことから、始原生殖細胞においては癌細胞などで認められるヘテロクロマチンのリモデリングが生じている事がわかった。このヘテロクロマチンリモデリング現象はDNA低メチル化が生じているDnmt1欠損ES細胞においても認められたことから、DNAメチル化が低下することによって生じていることが示唆された。Tet1欠損マウスの始原生殖細胞ではペリセントロメア領域の5-ヒドロキシメチル化シトシンが獲得されないことを見出しているが、H3K27me3の獲得もTet1/Dnmt1二重欠損ES細胞で生じておらず、Tet1がH3K27me3を導入するポリコーム複合体の誘導に機能していることが示唆された。Dnmt1欠損ES細胞ではメジャーサテライト反復配列の転写が抑制される一方、Tet1/Dnmt1二重欠損ES細胞ではメジャーサテライト反復配列の転写が脱抑制していることがわかった。このことから、始原生殖細胞で生じているヘテロクロマチンのリモデリング現象はメジャーサテライト反復配列の抑制に機能していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
始原生殖細胞およびDnmt1欠損ES細胞をもちいた実験を通じてヘテロクロマチンリモデリング現象が生じていること、および、このリモデリングがメジャーサテライト反復配列の抑制に機能していることを明らかにしつつあり、当初目標としていたペリセントロメアヘテロクロマチン領域に誘導されるTet1、そしてその結果獲得される5ヒドロキシルメチル化シトシンの意義について徐々に解明できている。特に、Dnmt1欠損ES細胞において始原生殖細胞と同様のヘテロクロマチンリモデリングが生じていることを見出した事は大きな意味を持ち、当初計画していたES細胞からの始原生殖細胞の誘導は必ずしも必要ではなくなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後はTet1欠損マウスの卵子、およびその卵子に由来する受精卵においてもペリセントロメア領域におけるクロマチンリモデリングが生じているかを明らかにする。始原生殖細胞においてはTet1欠損の結果メジャーサテライト反復配列の上昇が認められたが、この影響が卵子および受精卵でも生じているのかを明らかにする。さらにES細胞を用いて、Tet1タンパク質のうちいずれのドメインがヘテロクロマチンリモデリングに重要なのかを、CRISPRを用いた変異導入によって明らかにする。さらにdCas9実験系を用いて、Tet1の酵素活性ドメインをメジャーサテライト領域にリクルートすることで人為的にヘテロクロマチンリモデリングが誘導することができるか明らかにする。
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