公募研究
ヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)のメチル化は、遺伝子発現の抑制に相関するエピジェネティックマークである。本研究の目的は、H3K9の脱メチル化による時間・空間的なエピゲノムの再編が生殖細胞の分化に果たす役割を明らかにすることである。この目的のため、H3K9の脱メチル化酵素であるJmjd1aとJmjd1bをコードする遺伝子を生殖細胞特異的に欠損させたマウスの表現型の解析を進めた。雄性生殖細胞におけるJmjd1a/Jmjd1bの機能:Jmjd1aのみを欠損させたマウスでは、精子形成過程の後期、すなわち半数体生殖細胞の形成が不全となり、当該オスは不妊となった。Jmjd1bのみを欠損させた場合の精子形成過程成には異常が認められず、当該オスには妊よう性が認められた。これに対し、Jmjd1aとJmjd1bの双方を欠損させたマウスは極めて重篤な表現型を示した。このことは、Jmjd1aとJmjd1bには機能の重複があることを意味する。Jmjd1a/Jmjd1b両欠損マウスの成体オスの精巣では全く生殖細胞が観察されなかった。出生前後から思春期にかけての詳細な解析を行なった結果、減数分裂に移行する前の精原細胞の段階で生殖細胞が無くなることが明らかになった。Jmjd1a/Jmjd1b両欠損マウスの生殖細胞を精製して遺伝子発現解析を行なったところ、精原細胞の様々なマーカー遺伝子の発現低化が観察された。現在この発現低化について、発現している細胞の数の減少に起因するのか、あるいは細胞あたりの発現量の減少に起因するのかについて、解析を進めている。雌性生殖細胞におけるJmjd1a/Jmjd1bの機能:オスの場合と同様に、Jmjd1a単独、あるいはJmjd1bを単独で欠損したマウスでは顕著は表現型は観察されなかった。一方で、Jmjd1a/Jmjd1bを双方欠損させた卵子では、野生型精子との受精した際に95%以上の胚が胚盤胞へ到達しなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度に計画した二つの研究の進捗状況を以下に記載する。1)雄性生殖細胞におけるJmjd1a/Jmjd1bの標的遺伝子の探索についてJmjd1aとJmjd1bを欠損した雄性生殖細胞からRNAライブラリを作成し、次世代シーケンスによって網羅的な遺伝子発現解析を行なった。その結果、精原細胞の様々なマーカー遺伝子の発現が低化していることが判明した。2)初期胚発生における母性Jmjd1a/Jmjd1b の役割Zp3-CreドライバによってJmjd1a/Jmjd1bを欠損させて得られた卵子と野生型精子との受精では、95%以上の胚が胚盤胞到達前に死亡することを明らかにした。これらは当初の予定通りの進捗であり、「おおむね順調に進展している」と判断した。
Jmjd1aとJmjd1bを欠損すると精原細胞で特異的に発現する遺伝子群の発現が低化することが、RNAシーケンス解析によって明らかになった。これについて、「発現している細胞数が野生型と比較して減少している」ためなのか、あるいは「細胞あたりの発現量が野生型と比較して低下している」ためなのかについて、検証を進めていく。また後者であった場合には、これらの遺伝子群がJmjd1aとJmjd1bの直接の標的であるのかどうかについて、クロマチン免疫沈降によって解析する。母性Jmjd1a/Jmjd1bの役割については、平成29年度の早期にRNAシーケンス解析を行ない、着床前の胚発生における母性Jmjd1a/Jmjd1bの機能解析を進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
PNAS
巻: 113 ページ: E7212-E7221
10.1073/pnas.1612626113
Stem Cell Rep
巻: 7 ページ: 1072-1086
10.1016/j.stemcr.2016.10.007
Cell Struct. Funct.
巻: 41 ページ: 145-152
Reproductive Medicine and Biology
巻: 15 ページ: 59-67
10.1007/s12522-015-0223-7
https://ouyoukouso01.ait231.tokushima-u.ac.jp/