公募研究
精子核に全能性(全ての細胞に分化する能力)を与える卵細胞質の初期化活性は、体細胞核にも働き、卵細胞質への体細胞核移植後にクローン個体を得ることが可能である。本研究は、卵子が有する独特の性質である、体細胞核に全能性を授ける能力の分子基盤を明らかにすることを目標とする。現在のところ、体細胞核が全能性を獲得する分子的背景は多くが謎に包まれている。初期化効率の向上や全能性の包括的理解のためにもその解明の意義は大きい。我々は体細胞核の初期化を促進する培養条件を検討する過程で、クローン個体の作出効率を大幅に向上する条件を発見した。平成28年度は体細胞核移植胚の発生率を大幅に向上させる条件を学術論文として投稿した。また、当該条件下で発現上昇する遺伝子の内、正常受精胚と比較した際に通常の体細胞核移植胚(発見した条件で処理をしていない核移植胚)で発現が有意に低下する遺伝子16個を同定した。この16個の遺伝子の中から体細胞核の全能性獲得に必要な遺伝子のスクリーニングを開始した。具体的には、正常受精胚における個々の遺伝子の発現をsiRNAインジェクションにより抑制し、胚発生への影響を調べた。その結果、16個の内、2個の遺伝子が正常受精胚の発生に必要であることを発見した。同定した2遺伝子はいずれも転写制御に関わる機能を持ち、初期胚において核内局在が観察された。同定した2遺伝子は胚発生に必要であるにもかかわらず、核移植胚においてはその発現が抑制されており、特定のヒストン修飾が当該遺伝子の制御に関与する可能性も見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、16個の遺伝子のスクリーニングを実施し、その中から胚発生に重要な遺伝子を2つ同定することができた。当初の計画では16個の中から候補を絞るのが難しいと予想し、核移植胚における過剰発現により胚発生への影響を調べ、初期のsiRNAスクリーニング後に候補を絞り込む過程を計画していた。しかし、siRNAスクリーニングにより同定したのは2遺伝子であり、個々の遺伝子の機能を詳細に調べることが十分可能であるため、この過程は除いた。また、核移植胚における同定2遺伝子の発現抑制が、核移植胚の発生停止の一因となっていることを示すため、同定遺伝子の過剰発現による胚発生への影響も現在調べている。しかし、当初計画していたRNAシークエンシングについては未だ実施しておらず、同定2遺伝子が核移植胚の発生に与える影響を調べるために本年度実施する予定である。これに伴い、平成28年度に「その他」として計上していたRNAシークエンシングの費用を物品費として使用した。一方で、当初の計画ではなかった、同定遺伝子の発現解析等も既に行っており、新規の知見も多く得ている。以上の実験結果を鑑み、研究はおおむね順調に進行していると判断する。
平成28年度は核移植胚で発現が低下しているが、胚発生に重要な遺伝子を同定することができた。今後は以下に示す2つの方向性で研究を発展させることを計画している。(1)同定した胚発生に必要な遺伝子の機能解明同定した2遺伝子は何れも初期発生における機能はわかっていない。そこで、ノックアウトマウスを作製し、胚発生における機能を明らかにする。ノックアウトマウスを用いた解析においても、発生初期での胚発生停止が予測される。停止原因をRNA-seq等の解析法によって調べる。また、核移植胚に当該遺伝子を過剰発現することによって、核移植胚の発生が促進されるかを検討する。2つの遺伝子の過剰発現によって影響を受けた転写産物をRNA-seqにより同定し、当該遺伝子が核移植胚の発生を制御する分子メカニズムについても考察する。(2)同定した2遺伝子が何故核移植胚で発現低下するかを明らかにする2遺伝子が何故核移植胚で発現低下するのかは明らかになっていない。体細胞核で発現が抑制される機構をエピジェネティックな視点から明らかにし、核移植胚の発生が停止する理由を分子レベルで説明することを計画する。特に、発現抑制に働くヒストン修飾に着目し、体細胞核のヒストン修飾が核移植後も維持されているかを調べる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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