公募研究
Wnt阻害剤を用いて、マウスナイーブ型幹細胞であるES細胞からプライム型幹細胞であるEpiSC細胞への転換を効率良く行う新規培養技術を確立し、マウス亜種間ハイブリッドの胚盤胞から得られた雌ES細胞を用いて、この転換過程における遺伝子発現、エピゲノム変動に関する解析を行った。この実験系では、約5日間の間にドーム状のナイーブ型からフラットな形態を持つプライム型幹細胞への転換が起こることがわかった。その過程におけるトランスクリプトーム動態をシングルセルRNA-Seq技術等で解析し、同時にヒストン修飾、DNAメチル化等のエピゲノム変動の解析も実施した。さらに、エピジェネティック制御因子のノックアウト細胞を用いて、エピゲノム変動の生物学的意義を明らかにしつつある。シングルセルRNA-Seqの解析から、分化転換を誘導した2日目から3日目にかけて、異なる発現プロファイルを持つ細胞が多数出現し、細胞の多様性が急激に増加することが明らかになった。この時期は、X染色体不活性化の指標であるXist RNAのスポットが増加する時期に相当し、細胞分化状態の大規模変動とランダムX染色体不活性化のタイミングがほぼ一致することが示された。ヒトPGCにおける遺伝子発現プロファイルとその基盤となるエピゲノム状態を解析するために、オランダ・ライデン大学より送られたヒトPGC由来のDNA、RNAを用いてDNAメチル化解析用、RNA-Seq解析用のライブラリー作製を行った。雄性生殖細胞分化におけるCtcfl遺伝子機能を解明するために、テトラサイクリン制御によって同遺伝子の過剰発現を誘導するES細胞を作製するとともに、ChiP-Seq解析のために、FLAGタグを内在性Ctcfl遺伝子に導入したES細胞も作製した。
2: おおむね順調に進展している
哺乳類生殖細胞の比較オミックス解析に関しては、当初、ヒトPGCの単離やそこからの核酸の調製の条件が定まっておらず、オランダの共同研究者からのサンプル待ちの期間が長かったが、H28年度中にその条件がほぼ確立され、実際に高品質のDNA、RNA試料を得ることができた。また、シーケンス解析の一部を外部に委託する必要があり、研究倫理関係の事務処理に時間を要したが、これについても28年度中に承認を受けたので、実験を進めることができるようになった。雄性生殖細胞分化における機能遺伝子の同定とその解析については、造精能を喪失したdGS細胞と正常GS細胞の比較を行い、その原因候補遺伝子を同定したが、その一部に関しては、既に機能解析を開始している。着床前後におけるリプログラミング、遺伝子発現変動におけるエピゲノム機能制御に関する研究に関しては、当初の予想以上に進展しており、シングルセルレベルのトランスクリプトーム解析から、細胞変換過程の時系列変化を詳細に追跡し、大規模に遺伝子発現プロファイルが変動する発生転換点を特定した。また、並行してX染色体不活性化の解析を行い、不活性化の開始時期と上記の大規模発現変動の時期が一致することを見出し、このタイミングでエピゲノムリプログラミングが生じている可能性を示すことが出来た。
1)ヒトーマウスの比較オミックス解析については、H28年度までに準備が整い、シーケンス解析用のライブラリー作製も実施済みであるので、この配列解析を行い、情報学的解析を実施して、ヒト生殖細胞の特性を解明し、ヒトーマウスにおける共通点、相違点を明らかにする。2)H28年度までに、造精能を失ったGS細胞で発現低下を示す遺伝子群を同定したので、これらの遺伝子の機能解析を継続して実施する。また、候補遺伝子として転写因子(あるいはエピジェネティック制御因子)の働きを持つものに関しては、RNA-Seq解析、ChIP-Seq解析を実施し、その標的遺伝子群の同定を試みる。3)ナイーブープライム転換過程におけるエピゲノム機能制御については、この過程の遺伝子発現制御、エピゲノム変動の詳細について継続して解析するとともに、エピゲノム修飾に関連する遺伝子に変異を持った細胞を作製し、この過程におけるエピゲノム変動の生物学的意義を追究する。またX染色体不活性化の開始から成立に至る各ステップの詳細な解析を実施する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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