研究領域 | 植物発生ロジックの多元的開拓 |
研究課題/領域番号 |
16H01232
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
榊原 恵子 立教大学, 理学部, 准教授 (90590000)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 転写因子 / 1細胞解析系 |
研究実績の概要 |
多細胞生物は、細胞分裂後に自身と同じ細胞を生み出す自己複製能と別の細胞への分化能の両方を有する幹細胞を持ち、分裂と分化を高度に調整して多細胞体制を構築している。ヒメツリガネゴケ (Physcomitrella patens) は発生段階に応じて露出した単一の幹細胞を形成するため、観察や外部操作が容易である。特に発生初期の胞子体は1個の幹細胞を持ち、後に1個の胞子のうを分化して発生を終了する。幹細胞に隣接する細胞(以後、隣接細胞)は幹細胞にならないことから、幹細胞から何らかの抑制シグナルが隣接細胞に伝えられることで、ボディプランが維持されていると考えられる。ヒメツリガネゴケKNOX1遺伝子は胞子体の幹細胞で発現し、この遺伝子の機能を阻害すると、幹細胞の分裂活性が低下する。さらに、隣接細胞も幹細胞化するBRANCHING (br) 変異株を単離した。この表現型はこれまでに例がなく、BR遺伝子の機能解析を行うことで新規の幹細胞決定因子、抑制因子の単離が期待される。BR遺伝子はホメオボックス転写因子をコードしており、KNOX型転写因子と複合体を形成して核移行することで機能することが推測されている。転写因子BRはKNOX1とともに、幹細胞における抑制シグナルの生合成や輸送か、隣接細胞における幹細胞化の抑制に機能していると考えられる。本研究は、BRタンパク質の局在観察と標的遺伝子の同定、および標的遺伝子の機能解析により、幹細胞制御に関わる新しい分子機構を解明することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成28年度に産前産後休業のため、研究を中断した。また、平成28年度4月付けで異動により研究実施場所を変更したため、研究環境整備に時間を必要とした。
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今後の研究の推進方策 |
① BRタンパク質の発現解析 平成28年度、研究環境の整備とBRタンパク質の発現解析に必要なBR-CFPノックイン株の作出を完了した。今後、これを用いてBRの発現を調べるとともに、br変異株におけるKNOX1タンパク質の局在解析を行い、KNOX1とBRの相互作用を検証する。 ② 1細胞遺伝子発現解析系による幹細胞決定因子の単離 野生株とbr変異株の幹細胞及び隣接細胞の1細胞トランスクリプトーム解析を行い、BRの標的遺伝子を同定する。野生株の幹細胞 (A) 、隣接細胞 (B) 、br変異株の幹細胞 (C) と隣接細胞 (D) の細胞液をキャピラリーにより回収してcDNAライブラリーを作成し、次世代シークエンサーによる網羅的な遺伝子発現解析を行ない、同じ胞子体のAとB、またCとDの間で発現プロファイルの比較解析を行ない、幹細胞あるいは隣接細胞特異的な遺伝子の同定、幹細胞と隣接細胞間の相互作用に関わるBRの標的遺伝子候補を探索する。今年度より新規研究実施場所に異動したため、新たに倒立顕微鏡及びマイクロマニュピレータータカノメを導入し、実験環境を整備した。 1細胞遺伝子発現解析系により、br変異株にて有意な発現変動を示す遺伝子を同定し、これをヒメツリガネゴケのプロトプラスト再生過程において過剰発現させ、幹細胞形成への影響を調べることで、新規幹細胞形成及び抑制因子を同定する。
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