公募研究
新奇GRAS型転写因子SCL28は、MYB3Rの直接の転写制御を受けて細胞周期G2/M期に発現し、M期移行の抑制と核内倍加の促進に機能することを既に明らかにしている。SCL28の変異体と過剰発現体を用いた解析などから、SCL28による転写制御の標的はSIM/SMRファミリーのCDKインヒビターであり、SCL28はこれらの遺伝子の転写を活性化することにより、細胞周期を抑制し、器官を構成する細胞の数と細胞サイズのバランスを適切に制御するために重要な役割を果たしていることがわかった。また、SCL28と結合して機能するDNA結合型転写因子の探索を行った結果、AP2型転写因子の一つを候補として同定することができた。このAP2型転写因子の変異体ではscl28変異体と同様の表現型を示すほか、SCL28過剰発現の効果が見られなくなることなどから、機能的にも密接に関わっていることが明らかになった。MYB3Rは複数の転写因子を含む大きなタンパク質複合体として機能していることが分かっており、その構成因子の候補としてALYファミリーのタンパク質を同定している。シロイヌナズナには機能重複した3個のALY遺伝子が存在し、それらが配偶体形成に必須であること、二重変異体の組み合わせは、種々の細胞周期遺伝子の転写に影響し、MYB3Rの変異体と類似した胚発生分裂パターンの異常を引き起こすことがわかった。この変異体では細胞周期遺伝子の発現が上昇しているものの、抑制型MYB3R変異体で見られるような強い効果は見られなかった。おそらくALYファミリーの機能重複が原因と考えられるため、cre/loxの系を利用した方法でaly三重変異体を誘導するための準備を行った。また、MYB3Rタンパク質複合体に含まれるE2Fについても、三重変異体(e2fa,b,c)を作出して機能解析の準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の柱である新奇GRAS型因子とMYB3R複合体について、新たにいくつかの重要な発見をすることができた。GRAS型転写因子については、その転写制御の標的遺伝子としてSIM/SMRファミリーの遺伝子を同定することができた。更に、SCL28の作用に関わる分子機構についても、新たにAP2型転写因子が必須な働きをしていることを明らかにし、今後の研究に道筋を付けた。一方、MYB3R複合体については、その構成タンパク質ALYやE2Fの機能解析を一定程度進展させ、次年度の研究に道筋をつけることができた。しかし、複合体の生化学的な解析やDNAへの結合に関する研究は、技術的な問題がまだ残されており、これらについて今後解決していく必要がある。
新奇GRAS型転写因子SCL28は、細胞サイズに極めて強い影響を与えることから、細胞サイズ制御の鍵因子であると考えられる。今後、このように細胞サイズを制御することの生理的な意義について解明していく必要がある。このため、種々の環境ストレス耐性や環境応答反応に、細胞サイズがどのように関わっているのかを変異体や過剰発現体を利用して明らかにしていく。また、SCL28の作用機構についても、新たにAP2型転写因子の関与が明らかになったため、これを利用して解析を進める。GRAS型転写因子の作用メカニズムは、多くの研究が行われているにもかかわらず、必ずしも明らかにされていない。本研究はこの状況に対してブレイクスルーをもたらす可能性がある。AP2型転写因子とSCL28の機能的、物理的相互作用、またDNAへの結合や転写活性化にそれぞれの因子、またその相互作用がどのように寄与しているのかなどについて解析していく。さらに、SCL28の作用に関わる新奇因子の同定も進める。MYB3Rタンパク質複合体については、構成因子の多重変異体を用いた機能解析を進める。表現型と細胞周期遺伝子の発現などについて調べることにより、複合体の機能や、それぞれの因子の転写制御における寄与について明らかにしていく。この他、推定される複合体構成因子間のタンパク質相互作用について酵母ツーハイブリッドの系などを用いて解析する。また、懸案である複合体の生化学的な同定も技術的な問題をクリアしていく必要がある。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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