公募研究
本研究では、研究代表者が所属する名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の理念である「合成化学と生物学の融合による新奇化合物の創出」を目指し、植物の生長とバイオマス生産に非常に重要である、気孔の発生に影響を与える合成化合物の探索と同定を行う。それにより、気孔の発生ロジックの理解し、また、操作することを目指す。本年度は、気孔の数と分布、および気孔系譜幹細胞の維持と分裂に影響をおよぼす化合物のスクリーニングを継続し、100程度の候補化合物を得た。これら化合物の気孔形成に与える効果を定量的に解析し、化合物の効果のランク付けを行った。将来的な作物への応用を考慮し、植物体の成長を促進する(もしくは成長に悪影響与えない)化合物を優先的に解析した。もっとも効果の高い化合物をシロイヌナズナ芽生えに処理し、化合物に応答した全遺伝子の変動を解析した。その結果、 本化合物は特定の代謝経路の発現を誘導する一方、多くの環境ストレスや病原ストレス応答は抑制されているとわかった。そのため、本化合物は植物の【成長と防御のバランス growth-defense tradeoff】に関わる経路に作用することが示唆された 。このトレードオフは、作物の増収を目指すと、その一方で耐病性やストレス耐性が減ってしまう、という育種の上でのネックとなっている。気孔の形成、代謝経路、そして成長と防御のバランスがどのような関係にあるのか、 H29年度には、本化合物の標的同定などを目指すことにより、植物の未知の制御機構の解明を目指す 。この化合物は、現在、米国に特許出願中である。さらには、新たに同定された化合物に関しても、その薬理効果の解析を進める。
1: 当初の計画以上に進展している
孔辺細胞特異的に強いGFP蛍光を発するライン(野生型背景)を用いて気孔の発生とパターン形成に影響をおよぼす化合物スクリーンを継続した。現在までに約10000種類の化合物をスクリーニングし、そのうち、100種類程度の候補化合物を得た。それら化合物を (i) 気孔の数を増やすが、植物発生に異常が生じる(中には気孔の幹細胞であるメリステモイド細胞の分裂や増殖異常が生じるものも含む)(ii) 気孔の数を増やし、植物も健全に生育する(あるいは、生育がよくなる)という2グループに分け、気孔系譜のGFPマーカーを用いた定量画像解析を介して、各々の化合物の有用性をランキングした。将来的な作物への応用を見据え、(ii)のグループについて、化合物の構造をベースにさらなるクラス分けを行った。最も有用性の高いKX9に関して、RNA-seq 解析を行い、化合物処理による全転写産物の変動を解析した。その結果、KX9添加によって短時間に誘導される遺伝子群には、 「気孔の発生分化」に関わるものと、特定の代謝経路に関わるものが含まれていた。一方、KX9添加により エチレン、ABAなど植物ストレスホルモン応答性、浸透圧ストレス応答性、塩ストレス応答性、病原菌応答性など、幅広い環境ストレスと生物学的ストレス応答性の遺伝子発現が、一律、抑制されていた。この予想外の結果から、KX9は植物の【成長と防御のバランス growth-defense tradeoff】に関わる経路に作用することが示唆された 。実際に、様々なストレス条件下におけるシロイヌナズナ芽生えにKX9を添加したところ、特定のストレス下で芽生えの成長促進が見られた。気孔の形成、代謝経路、そして成長と防御のバランスがどのような関係にあるのか解析を続ける予定である。
現在、KX9 に関しては、ITbMの化合物合成技術を用いて複数のアナログを作成中である。 生理活性を保った状態での側鎖修飾とカラム固相化によるアフィニティークロマトグラフィー法による化合物の標的因子の同定を目指す。また、新たに単離した化合物の中には類似したい構造を持つ物が複数ある。これら一連の化合物の共通性から、気孔の発生を促進する化合物の共通部位が推測される。これらに関しても、植物側の標的因子の同定を目指す。植物体への効果の多面的解析、RNA-seq法を用いた解析を継続し、気孔の数を増やし、かつ、植物成長を促進する一連の化合物の標的経路を明らかにしていく。作物個体の成長や、各種ストレス耐性への投与の効果をフェノームおよびトランスクリプトームレベルで解析し、応用への可能性を開く。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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