研究領域 | 植物発生ロジックの多元的開拓 |
研究課題/領域番号 |
16H01244
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古谷 将彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 特任助教 (10432593)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オーキシン極性輸送 / pH / PIN / 細胞膜H+-ATPase / 構造解析 |
研究実績の概要 |
オーキシン排出輸送体PIN-FORMED(PIN)が細胞膜上で極性を持って局在しその極性が細胞間で揃うことにより、オーキシン極性輸送が可能になる。オーキシン輸送担体を介した輸送の他にも、細胞膜を挟んだpH勾配に従ったオーキシン移動が想定されているが、細胞間のオーキシン輸送におけるpHの役割については未だ不明である。そこで、本研究はオーキシン極性輸送におけるpHの役割を明らかにし、実験とコンピュータ・モデリングからオーキシン極性輸送機構を解明する。平成28年度は以下の2つの実験を実施した。まず、PINの輸送体としての機能解析からオーキシン排出とpH勾配との関係を明らかにするため、PINの構造解析に向けた準備を行った。酵母においてオーキシン排出輸送体として機能するPINの最小単位の同定を行った。PINはNおよびC末端にそれぞれ5個の膜貫通領域を持ち、その間に長いループ領域を持つ。ループ領域を様々な箇所で分断しつなぎ合わせたPIN3遺伝子を作製した。現在、それらを酵母に発現させ、細胞膜局在性およびオーキシン排出能を確認している。次に、細胞膜を挟んだpH勾配を人為的に操作しPINの局在に与える影響を調べpHとオーキシン極性輸送の関係を明らかにするために、恒常的活性型もしくは不活性型の細胞膜H+-ATPase (CA-AHA2及びDN-AHA2)をエストラジオール依存的に発現誘導できる系を構築した。PIN2-GFPを発現する植物体に導入し、現在T2選抜中である。予備的実験において、エストラジオール投与によりmCherry-CA-AHA2を発現誘導させると、PIN2-GFPの細胞膜上のシグナル強度の低下及びPIN極性の乱れが確認され、pH勾配がPINの細胞膜局在を制御する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画では、オーキシン排出輸送体として機能するPINの最小単位の同定を完了する予定であった。酵母におけるオーキシン極性輸送能のアッセイ系を一から立ち上げつつあり、まもなく完成予定である。また、PINタンパク質全長を酵母において発現させると、主に細胞内小胞に局在し細胞膜にはごく弱いシグナルが検出されるだけであった。そのため、オーキシン排出能を有したPINの最小単位の同定に際して、細胞膜局在性も確認する必要性が生じた。それに伴い細胞膜局在を確認するためGFPをループ内に導入し、さらにループ領域の分断・連結の組み合わせ総数を当初の予定の3倍に設定し直した。現在、総数の1/4程度は作製し終わり、さらにその数を増やしつつある。一方、細胞膜を挟んだpH勾配を人為的に操作する系の構築に関しては、研究計画どおりに順調に進んでいる。現在T2世代の選抜中で、平成29年度の早い段階で形質転換体の作製は完了する。これまでに予備的実験を実施し、系の動作確認を行った。恒常的活性型の細胞膜H+-ATPaseをエストラジオール依存的に発現誘導したところ、PIN2の極性が変化が観察された。そのことから、平成29年度に実施予定の実験に期待が高まっった。
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今後の研究の推進方策 |
(研究計画1:オーキシン排出輸送体としてのPINの機能解析)約200種類の切断型PIN3-GFP -6xHisの中から細胞膜局在及びオーキシン排出能を示すものを選抜し、それらの結晶化を行う。うまく結晶化できたものから構造解析に供する。また、人工膜リポソームにPINを再構成させ、オーキシン排出能とpH勾配の関係を明らかにする。 (研究計画2:pHとオーキシン極性輸送の関係解明)mCherry-CA-AHA2及びDN-AHA2を任意のタイミングで発現誘導できる植物体の作製を完遂する。また、脱リン酸化を介して細胞膜H+-ATPaseを不活性化するPP2C-Dの発現誘導系も構築する。形質転換体を用いて発現誘導前後のPINの局在解析を詳細に行い、数理モデルの仮定を実証する。また、アポプラストにおけるpH勾配の実証実験も行う。 (研究計画3:pH依存的オーキシン輸送モデルの構築)数理モデルの仮定が実験的に証明される公算が高まったため、pH依存的オーキシン輸送に関する数理モデルを構築し、コンピュータ・シュミレーションを行う。
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