公募研究
環境の変化や世代などに応じて無性生殖と有性生殖を転換する動物が広く後生動物界に存在している。研究代表者は扁形動物プラナリアで、有性個体に含まれる有性化因子と称する化学物質の刺激により、無性個体に雌雄同体性の生殖器官を誘導させる有性化系を確立している。本研究では、有性化因子で解除されるWntシグナルを介した生殖細胞分化抑制機構の解明を目的として、①生殖器官特異的有性化因子群の特定、②NDK-Wntシグナル下流の経路の決定、③NDK-Wntシグナル上流あるいは独立して働く有性化制御遺伝子の同定を行った。研究項目①ではメタボローム解析によって決定した有性化因子候補化合物32種について、無性個体に給餌して有性化効果を検証したところ、卵巣誘導を引き起こす化合物が17種同定された。このうち、卵黄腺分化を促進する効果があるものが7種あることがわかった。また、精巣を分化させて完全有性化を引き起こす化合物を2種同定した。研究項目②では、無性個体と有性個体のRNAシーケンス情報にもとづいたpathway enrichment解析からWntシグナル関連遺伝子群の有為な発現変化が有性化中に起こっていることを予想通りに示すことができた。また、有性化因子の刺激を与えた有性化5段階のRNAシーケンス情報から生殖細胞分化抑制候補遺伝子を絞りこんだ。研究項目③では、頭部再生体に関して無性化可能な有性系統と不可能な有性系統のRNAシーケンス情報を構築した。有性化因子の刺激なしに有性化する頭部再生体ではNDK-Wntシグナル上流の遺伝子群、あるいはこれとは独立した有性化制御遺伝子が働いていると期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
はじめて、完全有性化因子を2種(ここで便宜的に物質Aと物質Bとする)同定することに成功した。特に物質Aの生合成経路はこれまで後生動物では報告がないことから、プラナリアで独自の機構の存在が示唆され、これが解明されれば生物学的にインパクトの高い成果に結びつくと期待できるため。
研究項目①では、精巣を分化させて完全有性化を引き起こす化合物を2種同定したので、今年度はこれらの化合物の作用機序の解明を目指す。研究項目②では、有性化5段階のRNAシーケンス情報から絞り込んだ生殖細胞分化抑制候補遺伝子群について発現解析やRNAiによる遺伝子ノックダウンによる生物検定を行い、有性化現象に重要な遺伝子であるかを検証する。また、それが確かめられた場合、Wntシグナル経路との関連性を探る。研究項目③では、頭部再生体に関して無性化可能な有性系統と不可能な有性系統のRNAシーケンス情報から絞り込まれたNDK-Wntシグナル上流の候補遺伝子群、あるいはこれとは独立した有性化制御候補遺伝子に関して発現解析やRNAiによる遺伝子ノックダウンによる生物検定を行い、期待している遺伝子であるかを検証する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Scientific reports
巻: 7 ページ: -
10.1038/srep45175
http://hue2.jm.hirosaki-u.ac.jp/html/100000569_ja.html