公募研究
哺乳類の睡眠は、レム(急速眼球運動)睡眠とノンレム睡眠から構成され、どちらもユニークな脳活動を伴う。レム睡眠は夢を生じる性質が注目され、古くから記憶学習への関与が提唱されてきた。しかしながら決定的な証拠がなかった。そこで本研究では、これまでにレム睡眠を正負に制御するニューロンの双方を同定したことを活かし、レム睡眠が記憶学習に関わるか否かの検証を目指してきた。本年度はまず、レム睡眠を従来よりも効率よくかつシンプルなトランスジェニックマウスのシステムで操作できる系の確立に取り組んだ。これまでに、脳幹において、レム睡眠を誘導するニューロン群に選択的にCre遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを得て、ウイルスベクターで化学遺伝学遺伝子を導入することで、一過的かつ高効率でレム睡眠を誘導することに成功した。さらに、行動実験の際には、化学遺伝学遺伝子を薬剤の腹腔内投与により活性化すると、腹腔内投与の注射刺激そのもののストレスの影響が懸念されたため、電子制御可能なミニポンプを腹腔内容に埋め込み、非侵襲的にレム睡眠を誘導する系の確立にも成功した。さらに、このポンプを利用することで、数日にわたる長期的なレム睡眠の増加にも成功した。本系を利用することで、記憶学習の課題の特定のフェーズで一過的にレム睡眠を誘発できるものと期待される。また、次年度以降に実際に行動実験を行うための実験系の確立にも取り組み、これまでに、情動記憶学習(Contextual- and auditory-fear conditioning test)およびその消去、弁別記憶学習(Novel object recognition test)、短期作業記憶(Y maze)などの系を確立することに成功した。以上を踏まえ、次年度に実際レム睡眠を操作した記憶学習への効果が解明できるものと期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたレム睡眠を効率よく、かつ非侵襲的に増加させる系の確立に成功した。また、同系の確立により、レム睡眠を長期的に操作することに成功した。そして行動実験の導入にも成功した。これら全ての環境が整ったことで、これまで大きな謎であったレム睡眠が記憶学習に関わるか否かについて、次年度以降に解明できるものと期待される。従って、本年度は計画通りに研究が進み、おおむね順調であると判断される。
レム睡眠の記憶学習への関与について明らかにするために、来年度は主に次の項目について研究を進める。一点目)レム睡眠の増加が成体の記憶学習に与える影響の解析。上記で開発した効率的なレム睡眠の操作が可能なマウスについて、マウスの様々な記憶学習実験に適用し、習得から想起に至る各過程における、レム睡眠の増加の効果を明らかにする。二点目)レム睡眠の増加が認知症による記憶学習の低下に与える影響の解析。レム睡眠を操作した影響は、脳機能の破綻による記憶学習能力の低下時に、より検出しやすい可能性がある。特に、アルツハイマー型認知症では、ノンレム睡眠中のデルタ波の低下という、私たちのレム睡眠阻害マウスと共通の症状が知られる。そこで、アルツハイマー病モデルマウスにおいて、レム睡眠の増加が記憶学習能力に与える影響も明らかにする。
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Transl Psychiatry
巻: 7 ページ: e1047
10.1038/tp.2017.19.
http://hayashi.wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/index.html