哺乳類の睡眠は、レム(急速眼球運動)睡眠とノンレム睡眠から構成され、どちらもユニークな脳活動を伴う。レム睡眠は夢を生じることから注目され、古くから記憶学習や情動への関与が提唱されてきた。しかしながら決定的な証拠がなかった。そこで本研究では、これまでにレム睡眠を正負に制御するニューロンの双方を同定したことを活かし、レム睡眠が記憶学習に関わるか否かの検証を目指してきた。単純に被験体がレム睡眠に陥ったら起こす、という方法では、起こすための刺激そのものが大きなストレスとなり、レム睡眠の影響と区別することが難しい。そこで私たちは、外部からの刺激に依ることなく、長期的にレム睡眠を阻害できるマウスを確立し、記憶学習への影響を検討した。そのために、脳幹橋において、レム睡眠の維持に重要なニューロン群に選択的にCre遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作製して、Cre依存的に細胞死誘導遺伝子DTAを発現するウイルスベクターを局所的に注入することで、これらのニューロン群を遺伝学的に破壊した。その結果、数週間にわたって高効率でレム睡眠を減少させることに成功した。 昨年度、行動実験を行うための実験系の確立に取り組んだことを活かし、上記のレム睡眠長期減少マウスの行動について解析した。その結果、情動記憶学習(Contextual- and auditory-fear conditioning test)や弁別記憶学習(Novel object recognition test)など実験系で異常が検出された。これらの結果は、レム睡眠が記憶学習や情動に影響を及ぼすメカニズムの解明へとつながるものと期待される。
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