記憶の形成機構やインスリンシグナルによる代謝制御機構の種を超えた保存性に着目し、老化に伴う代謝恒常性の変化が記憶形成機構に与える影響を明らかにする。ショウジョウバエにおいて、発生や成長の時期に影響することなくインスリンシグナルを抑制した個体を作製し、学習・記憶能を測定したところ、インスリンシグナルは記憶を維持するのに必要であることが明らかになった。また、インスリン受容体は筋肉、脂肪組織や神経細胞など様々な組織に発現しているが、その中でも脂肪組織におけるインスリン受容体の発現が記憶の維持に必要であることを明らかにした。さらに、脂肪組織においてインスリンシグナルの下流であるPI3Kをノックダウンさせた個体において記憶が低下したことから、脂肪組織におけるインスリンシグナルの活性化が記憶の維持に必要であることが示唆された。インスリンの分泌が記憶の形成過程のどの段階で必要かを検討するために、インスリン分泌を一過的に抑制する系を用いた。記憶を維持する過程でインスリン分泌を一過的に抑制したところ記憶が低下したことから、記憶の維持過程におけるインスリン分泌が必要であることを明らかにした。これまでの研究と併せて、インスリン様ペプチドの一つであるDilp3の分泌が記憶の維持に必要であり、老齢個体におけるDilp3の分泌低下が記憶維持の低下に関与している可能性が示唆された。
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