公募研究
嗅覚は動物の根源的な行動を支えており、日々変わる匂い環境に対して適切な行動を選択する匂いの学習記憶は極めて重要である。また匂いは強い情動・モチベーションを誘導して行動を促進する特性がある。これまでの私共の研究から、嗅覚神経回路の可塑的変化が覚醒睡眠サイクルに沿って行われること、睡眠中には嗅皮質から嗅球への中枢性入力が促進すること、嗅皮質の1領域である嗅結節にモチベーション行動に対応した機能ドメインがあることが分かってきた。本研究は以上を踏まえ、嗅覚学習記憶の形成機構を、嗅覚系脳領域の領域間相互作用、多領域ネットワーク機能の観点から明らかにする。その際、覚醒睡眠サイクルに基づく相互作用と嗅結節機能ドメインの役割を着目点として進める。これまでの研究により、・マウスの嗅覚系脳領域の複数箇所に電極を留置し、覚醒時の嗅覚タスク中、その後の睡眠時の局所電場電位(LFP)記録を行う手法を確立した。また、2種類の匂いを区別して、一方の匂い提示では水がもらえ他方の匂い提示では水がもらえないという匂いと水報酬の連合学習の実験系を確立した。・覚醒時の嗅覚タスク中は、嗅球と上位中枢である嗅皮質の代表的な領域である梨状皮質において、LFPの低周波数帯のベータ波の強度が増し、嗅球・梨状皮質間のベータ波の同調性が促進することを見いだした。・嗅覚タスク後の睡眠時は、嗅球および梨状皮質のLFPにおいて持続時間が短く振幅の大きい鋭波が促進することを見いだした。・嗅皮質の1領域である嗅結節では報酬と結びついた匂い刺激によって活性化する「前内側機能ドメイン」と、忌避刺激と結びついた匂い刺激によって活性化する「外側機能ドメイン」があることを見出し、それぞれのドメインに記録電極を刺入する技術を確立した。・平成28年度に研究代表者が異動したため、本研究の実験環境を新たに整備した。
2: おおむね順調に進展している
嗅結節の機能ドメインを含む嗅覚神経系の複数領域の活動性を同時に記録し、匂い学習の過程における変化を検討する実験系を確立することができ、実際に神経活動の可塑的変化を観察している。以上のことから研究計画は概ね順調に進展している。
以上これまでに得られた知見をもとに、今後は以下の解析を進める。・嗅球、梨状皮質、嗅結節前内側ドメイン、嗅結節外側ドメインの4か所に記録電極を留置し、匂い学習に伴うLFPの変化を解析する。嗅覚タスク中ではベータ波に着目し、各領域のベータ波の強度、領域間のベータ波の同調性が学習に応じてどのように変化するかを検討する。その際、水がもらえる匂いともらえない匂いに対する応答性が、嗅結節前内側ドメインではどのように異なるかを検討し、匂い学習とモチベーション応答の関連を検討する。また、2つの匂いに対する応答性を嗅結節外側ドメインにおいても検討する。・タスク後の睡眠中におけるLFPの鋭波に着目する。上記4つの各領域の鋭波の頻度および大きさ、さらに領域間の鋭波の同調性を調べ、睡眠中に領域間の情報伝達効率がどのように促進されているかを検討する。・嗅覚タスク後の睡眠中の嗅皮質の神経活動が、匂い学習記憶の成立に重要であると想定している。これを検証するため、嗅皮質の投射ニューロン特異的にCreを発現するNtsr-Creマウスとウイルスベクターによる機能分子発現を組み合わせ、リガンド(CNO)投与によって嗅覚タスク後の睡眠中の嗅皮質の神経活動を抑制する。この操作が匂い学習記憶の成立と上記のLFP変化にどのような影響を及ぼすかを検討する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
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