研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
16H01276
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
竹内 秀明 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (00376534)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 個体認知 / Face Inversion Effect / 配偶者選択 |
研究実績の概要 |
ヒトは顔認識に特化した神経機構を持っており、その機構に異常が生じると、顔や表情の認識が困難になる(相貌失認症)。またヒトでは顔を上下逆さまにすると、表情の違いが識別できなくなる。これはヒトが視覚情報を「顔」として認識しないと、顔の微細な違いが識別できなくなる現象で、顔認識に特化した神経機構があるために生じる。本年度はメダカの個体記憶においても、上記と同様な現象が生じるか検証した。メダカメスは長時間そばにいたオスを視覚記憶し、「見知らぬオス」と識別して、「見知ったオス」の求愛をすぐ受け入れる。まずメスのオス認知に「顔」情報が必要かを調べるために、「頭部を覆ったオス」、「尾部を覆ったオス」を視覚的に掲示して、「見知ったオス」として選択するか検定した結果、オスを個体認知するためには「顔(頭部)」の情報が必要であることが示唆された。次にプリズムによって「オスの顔」を上下逆に掲示した実験を行なった結果、メスは「上下逆にしたオスの顔」を識別できないことが示唆された。さらにスリーチャンバーテストを用いた新規行動パラダイムを確立し、個体認知能を検定した。方法は、中央チャンバーにメスを1匹いれ、両端チャンバーにそれぞれ1匹のオスを入れて視覚的にメスへ掲示し、メスが片方のオスに近づいた時に電気ショックを与えた。訓練後、メスは2匹のオスを識別して、電気ショックと連合したオスに対して忌避行動を示すことを見出した。さらにプリズムによって「オスの顔」を上下逆に掲示した場合は、メスはオスの識別ができなくなった。以上の実験から、メダカにもヒトと同様に、同種他個体の認識に特化した神経機構がある可能性が考えられる。本研究は元岡山大学・日本学術振興会外国人研究員・Mu-yun, Wang博士(現東京大学)との共同研究の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はメダカメスの個体記憶を検定する新規行動実験を確立できた。この行動実験系と配偶者選択という二つの行動実験パラダイムを用いることで、「個体記憶」に関わるニューロン群をスクリーニングすることが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、配偶者選択または忌避学習という二つの異なる行動パラダイムにおいて、「記憶したオス」の視覚刺激依存に共通して活性化するニューロン群を検索する。これにより、個体記憶に関わる脳領域候補が同定できると考えている。方法は、薬剤投与下で神経興奮依存にCre-loxP組換えを誘導する遺伝子改変メダカの作成し、活性化ニューロンを遺伝学的にラベルできる系統を作成する。昨年度、基礎生物学研究所の横井佐織博士、成瀬清博士らは最初期遺伝子(c-fos, egr-1)プロモーター下流にCre-DDを繋いだDNAコンストラクトを導入したメダカ系統を作出した(Cre-DD系統)。不安定化ドメイン(DD)と融合したCreリコンビナーゼは薬剤(トリメトプリム)依存に活性化する。これから共同研究を実施し、Cre-DD系統と成熟神経プロモーターの下流で、Cre-loxP組換え依存に蛍光タンパク質を発現する系統を掛け合わせる。注目する行動の数時間前にトリメトプリムを飼育水に投与することで、注目した行動依存に活性化したニューロンのみが蛍光ラベルできることが期待される。忌避行動のパラダイムでオスを記憶したメスに「電気ショックと連合したオス」と「見知らぬオス」を視覚掲示したときに活性化するニューン群を同定する。これに加え、配偶者選択の行動パラダイムで「見知ったオス」と「見知らぬオス」を視覚掲示したときに活性化するニューン群を比較することで、「個体記憶」に関わる候補ニューロン群(脳領域)を同定する。また膜局在型の蛍光タンパク質を用いることで、蛍光ラベルしたニューロンの投射先も同定し、個体記憶から「異性の好み」または忌避行動が引き起こされる全神経ネットーワークの検索も実施する。
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