研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
16H01279
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
水関 健司 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80344448)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2018-03-31
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キーワード | 海馬 / 記憶 / レム睡眠 / 扁桃体 / 腹側被蓋野 / 発火頻度 / 同期性 |
研究実績の概要 |
「レム睡眠は不必要な情報を消去して脳の記憶容量や情報処理能力を上げる」という仮説がある。さらに、レム睡眠が海馬の神経細胞の発火頻度の減少と同期性の上昇を引き起こす。しかし、レム睡眠が海馬以外の脳領域でも同様の機能を持っているのか不明である。また、レム睡眠による発火頻度や同期性の変化と記憶や情報処理の関係は全く分かっていない。 本年度はとくに次の2つの目標について研究を進めた。1.レム睡眠によって海馬の神経細胞の活動相関性や情報表現がどのように変化するかを調べる。2.海馬以外の記憶構造でレム睡眠が発火頻度や発火同期性などの可塑性に対してどのような役割があるのかを明らかにする。 先ず1.の目標では、レム睡眠の前後で、海馬の場所細胞どうしの相関関数が変化すること、その相関関数の変化とそれぞれの場所細胞の発火頻度との間にも相関があること、相関関数の変化と場所細胞の場所野の安定性にも相関があることを見出した。今後は、レム睡眠の前後におけるそれらの変化と、ノンレム睡眠中の脳活動との相関を調べることにより、睡眠によってどのように神経細胞の活動相関や情報表現が変化するかをさらに詳細に明らかにする。 2.の目標では、とくに外側膝状体と視覚野V1の活動を調べた結果、海馬と同じくそれらの脳構造においても、レム睡眠の前後で、神経細胞の発火頻度や同期性が変化することを見出した。すなわち、海馬で見つかっている、レム睡眠による神経細胞の発火や同期性の調節の役割が、他の脳領域でもみられる普遍的な役割である可能性を示唆している。 さらに2.の目標では、恐怖条件づけや報酬学習の行動中とその前後のレム睡眠中に、海馬・扁桃体・前頭前野・腹側被蓋野から記録をとり、これらの脳構造でのレム睡眠の役割を調べることを計画し、本年度はそのために必要な行動実験のいくつかを立ち上げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は申請時に研究のサブテーマの数をやや欲張りすぎた点があったが、当初の計画から大きく外れることなく、おおむね順調に進んだ。本年度はとくに次の2つの目標について研究を進めた。①レム睡眠によって海馬の神経細胞の活動相関性や情報表現がどのように変化するかを調べる。②海馬以外の記憶構造でレム睡眠が発火頻度や発火同期性などの可塑性に対してどのような役割があるのかを明らかにする。 先ず①の目標では、レム睡眠の前後で、海馬の場所細胞どうしの相関関数が変化すること、その相関関数の変化とそれぞれの場所細胞の発火頻度との間にも相関があること、相関関数の変化と場所細胞の場所野の安定性にも相関があることを見出した。現在は、レム睡眠の前後におけるそれらの変化と、ノンレム睡眠中の脳活動との相関を調べることにより、睡眠によってどのように神経細胞の活動相関や情報表現が変化するかをさらに詳細に明らかにし、論文に纏めようとしている。 ②の目標では、とくに外側膝状体と視覚野V1の活動を調べた結果、海馬と同じくそれらの脳構造においても、レム睡眠の前後で、神経細胞の発火頻度や同期性が変化することを見出した。すなわち、海馬で見つかっている、レム睡眠による神経細胞の発火や同期性の調節の役割が、他の脳領域でもみられる普遍的な役割である可能性を示唆する興味深いものであり、論文に纏める予定である。 さらに②の目標では、恐怖条件づけや報酬学習の行動中とその前後のレム睡眠中に、海馬・扁桃体・前頭前野・腹側被蓋野から記録をとり、これらの脳構造でのレム睡眠の役割を調べることを計画している。本年度はそのために必要な行動実験のいくつかを立ち上げることができた。 以上のことから、「おおむね順調に進んでいる」という自己評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は研究代表者1人で本研究を行ってきたが、H29年度は大学院生1人、医学部学部生2人をリクルートし本研究に参加させることになったので、彼らと共にH28年度以上に研究を推し進めていく。H28年度の研究実績に基づき、特に次の3点に力を注いで研究を推進していく。 (1)多点同時記録法を用いて、ラットの前頭前野・扁桃体・基底核・海馬体など、異なる記憶構造から覚醒時と睡眠時に慢性記録法で神経活動を記録する。そして、レム睡眠によって神経発火率や発火同期性がどのように変化するかを調べ、脳領域間で差があるのか、興奮性細胞と抑制性細胞などの細胞種により異なるのかなどを調べる。 (2)レム睡眠によって情報処理能力が上がるという仮説があるが、どのような神経活動がその実態なのかは分かっていない。そこで、レム睡眠によって海馬の神経細胞間の活動相関が下がり情報表現がよりスパースになるという仮説を検証する。具体的には新奇の場所課題をラットに行わせ、そのあと睡眠時の活動を記録し、もう一度もとの場所課題をさせる。レム睡眠の前後で神経活動の相関や情報表現のスパースさが変化しているかどうかを調べ、それらの変化率とレム睡眠時の神経活動との相関を調べる。 (3)重要でない情報が選択的にレム睡眠中に消去されるという仮説を検証するため、覚醒時に重要なイベントと重要でないイベント、または新奇な課題と慣れた課題の両方を経験させ、その前後の睡眠時の活動を記録する。そして、重要なイベントと重要でないイベントによって発火した細胞、新奇な課題と慣れた課題によって発火した神経細胞の発火頻度や同期性がレム睡眠によってどのように変化するかを比較する。
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