研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
16H01282
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
古田 寿昭 東邦大学, 理学部, 教授 (90231571)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ケージド化合物 / 化学プローブ / 光スイッチ / 化学生物学 |
研究実績の概要 |
光で記憶を操作可能にする新規ケミカルプローブを,以下の二つのアプローチで開発することを目指した。研究項目1では,狙った細胞種選択的に光活性化できるケージド化合物を新たに開発し,モデル生物個体脳において任意の細胞内シグナル伝達経路を自在に制御する手法,および,神経細胞における新規タンパク質合成を人工的に制御する手法に応用する。研究項目2では,領域内共同研究として,非侵襲的にドーパミン作動性神経の働きを制御するケミカルプローブを合成する。 (1)任意の神経細胞の生理機能を光制御するケージド化合物の設計・合成 任意の神経細胞の機能制御を目指して,細胞内シグナル伝達に関与する酵素類の阻害剤,および,いくつかのセカンドメッセンジャー類の新規ケージド化合物を設計・合成した。さらに細胞種選択性を付与するため,任意の酵素存在下で光感受性を獲得する修飾を施した。合成した酵素作動性ケージド化合物の光物理学的および化学的性質を検証した後,選択した酵素存在下で光感受性を獲得することを組換え体の酵素を用いる実験,目的酵素を一過的に発現した哺乳動物細胞溶解液中,および,生細胞を用いる実験で実証した。以上の結果を基にして,目的酵素発現細胞内でのみ光感受性を獲得するケージドリアノジンレセプターアゴニスト,および,ケージドcAMPの合成に応用した。 (2)非侵襲的にドーパミン作動性神経の働きを制御するケミカルプローブの合成 目的達成のために,ドーパミン生合成に関与する酵素の阻害剤を任意の酵素作動性に変換することを試みた。数種類の阻害剤を選び,豚肝臓エステラーゼ存在下でのみ阻害機能を発揮すように修飾した誘導体を設計・合成した。これにより,選択した酵素を強制発現した細胞の機能を選択的に制御可能になると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1では,従来型のケージド化合物の欠点を克服するために,任意の酵素存在下で光感受性を獲得する新規ケージド化合物の開発と化合物レパートリーの拡充を目指して研究を行った。その結果,当初の予定通り細胞内シグナル伝達に関与する酵素類の阻害剤,および,いくつかのセカンドメッセンジャー類の新規ケージド化合物を設計・合成して,目的の化学プローブのレパートリーを増やすことができた。細胞種選択性を付与するために導入した酵素応答性は,試験管内での検討のみならず,哺乳動物培養細胞内でもある程度期待通り働くことを実証することができた。さらに,光感受性を獲得する鍵になる酵素として,ベータ-ガラクトシダーゼ,豚肝臓エステラーゼ,および,ニトロリダクターゼの使用が可能であることを明らかにし,酵素と化学プローブペアの選択肢が拡充で切ることも確認した。これにより,たとえば,同一モデル細胞個体を用いて,複数の生理機能を選択的に制御する実験系構築の端緒が開かれたと考えている。また,この過程で,合成した化学プローブの生細胞内への導入を容易にする分子設計の指針も確率することができた。 研究項目2では,非侵襲的にドーパミン作動性神経の働きを制御することが期待されるケミカルプローブを複数種合成した。具体的には,ドーパミン生合成に関与する酵素の阻害剤を数種類選び,豚肝臓エステラーゼ(PLE)存在下でのみ阻害機能を発揮すような分子修飾を施した。合成した化合物について修飾による機能喪失と機能回復の有無を検証したところ,化学修飾しても機能が失われないもの,また,PLE存在下でも機能回復しないものがあることが明らかになった。合成する化合物の構造の多様性を確保して,トライアンドエラーで検証する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1では,平成28年度に続いて,さらにケミカルプローブのレパートリーの拡充を目指す。特に,有機小分子性化合物を用いる利点を活かすため,channel rhodopsinを用いるいわゆるoptogeneticsでは実現が困難な光制御の実現を目指す。光制御できる機能に細胞内の新規タンパク質合成を選びanisomycinのケージド化合物の開発も行う。R-Bhc-ケージド化合物の持つ細胞種選択性は,第一の鍵である酵素との反応性に依存している。すなわち細胞内に入って働くことが必須であることから,細胞膜透過性を付与できなかったものは使用できないという欠点を持つ。そこで,目的実現のための第2の方法として,DREADD (designer receptors exclusively activated by designer drugs) ,および,受容体の不活性化が実現できる新しいDREADDシステム (KORD) の光制御を可能にする化学プローブを設計・合成する。いずれの化合物とも細胞膜上で働くため,細胞内への導入の問題を回避できる特徴を持つ。 研究項目2では引き続き,各種MCPCM体の合成と化合物提供を実施する。ドーパミン作動性神経細胞の活動の制御に加えて,いくつかの細胞内シグナル伝達経路を選択的に制御するため,aktの阻害剤であるhonokiol,ERKに対するFR180204,PI3Kを阻害するPI103等のMCPCM体の合成,PLEとの反応性の解析,安定性を検討する。さらに,哺乳動物培養細胞を用いてPLE存在下でのみ期待通りに働くことを実証する。
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