研究実績の概要 |
シナプス可塑性が記憶・学習に重要な役割を担うことが示されてきたが、シナプスの機能変化がいかに個々の神経細胞の入出力変換を変えるのか、いかなるシナプス可塑性の集合体が記憶をコードするのか、そして記憶の安定な長期維持を実現するメカニズムなど、シナプスの機能変化から記憶・学習に至る一連の過程には分かっていない点が多い。本研究では、運動学習の基盤と考えられている小脳のプルキンエ細胞に焦点を当てて、多くのシナプスでの可塑性がいかに統合されて細胞の入出力演算を変化させ、またその変化がどのような三次元分布で小脳に蓄積することで個々の運動学習記憶がコードされるか、について明らかにすることを目指してきた。 本年度は、昨年度の研究で取り組んだ細胞膜電位蛍光プローブのさらなる改変により、より迅速に膜電位変化を追随する蛍光タンパク質を得ることに成功した。それを用いて、プルキンエ細胞でシナプス可塑性が起こることで確立する細胞全体の機能変化について時空間的に解析し、これまで知られていないユニークな可塑的変化を見出すことができた。これは、小脳皮質で運動学習が確立して安定化する際に鍵となる現象の可能性があり、今後も精力的に解析を続ける。 加えて、軸索およびその終末の可塑的性質に関して、直接パッチクランプ記録を駆使して新たな動的メカニズムを同定し、論文を3報公刊した(Zorrilla de San Martin et al., 2017; Kawaguchi and Sakaba, 2017; Yamashita et al., 2018)。これらは、これまで盛んに解析されてきたシナプス可塑性と協調して、小脳神経回路の可塑的性質を生み出す基盤となり得るもので、記憶・学習の基礎となる神経回路メカニズムの理解を深化させる知見と言える。
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