本研究では、申請者が独自開発を進めている新規光遺伝学的プローブを個体動物に適用する。特に、シナプス集団の光操作法を開発・応用することにより、シナプス集団の反応性や状態の揺らぎ(シナプスの記憶ダイナミズム)の意義を見出すことを目的とする。 昨年度までに、申請者らが開発に成功しつつある遺伝子コードされた光応答性シグナル分子について、沈殿法によるアデノ随伴ウイルスの精製を行った。また、海馬スライスのCA1領域において2光子蛍光顕微鏡下で光応答性分子を活性化し、スパイン体積の増大を観察することに成功していた。本年度は、光応答性シグナル分子を個体動物に導入し、スパイン体積の増大を惹起できるかどうかを調べた。しかしながら、昨年度精製したアデノ随伴ウイルスをマウス脳に導入し、麻酔下あるいは覚醒マウスのいずれにおいても2光子蛍光顕微鏡下でシナプス形態の変化を惹起することは出来なかった。原因は発現量が低いことと思われたため、新たにAAVを作製し直すことにした。まず、プロモーターをCaMKII1.5からCaMKII0.4に変更することによりサイズを小さくした。また、WPRE配列についてもWPRE3に変更し、さらに蛍光タンパク質を除いた。これらにより全体のベクターサイズを小さくすることができた。さらにアデノ随伴ウイルスの血清型をAAV9からAAVDJに変更し、精製方法もイオジキサノールによる超遠心法に変更した。このウイルスを初代培養神経細胞に導入したところ発現量を20倍にすることに成功した。すなわち、個体動物で発現させるための準備ができた。
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