研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
16H01290
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
檀上 輝子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 基礎科学特別研究員 (60613247)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 場所細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、動物が他の個体が存在する場所を認知する際の脳内メカニズムを解明することを目的としている。具体的な実験としては、2匹のラットを用いたT字迷路課題を行っている。この課題では、1匹目のラットの行動選択によって2匹目のラットの正解が変化するため、2匹目のラットが1匹目のラットの行動を観察し、その場所を認知することが必要となる。この課題をラットに学習させ、行動課題中の2匹目のラットの海馬から大規模神経活動記録を行い、1匹目のラットの場所認知(他者の場所細胞)に関わる神経活動を探索する。作年度は、行動課題の学習法を確立し、行動課題中のラットからのシリコンプローブを用いた大規模神経活動記録を行い、神経活動記録と行動記録をつきあわせて、それぞれのラットの場所と神経発火活動の関係を明らかにするための詳細な解析も開始した。その結果、自己の場所細胞のうち80%以上の細胞が、同時に他者の場所に依存した発火活動を示すことが明らかになった。また、場所細胞は、発火タイミングでのシータ波の位相と動物の存在する場所に相関があることが示されている(シータプレセッション)が、他者の場所に対しても同様の相関があることが示された。さらに、有意な割合の細胞が自己の将来の目的地ではなく、他者が存在する場所依存的な発火活動を示すというデータが得られ、これは、真に他者の場所情報を表象する 細胞ということができると考えられる。昨年度は上記のデータをまとめて論文投稿に向けた準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で最も難しい点は、トレーニングした動物の海馬の適切な場所から大規模神経活動記録を行うことであるが、本プロジェクトに必要な細胞数の細胞外記録が概ね終了しており、順調な進捗と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も上記を継続し、必要な再実験やデータのさらに詳細な解析を行い、論文採択に向けて研究を進める計画である。また、『他者の場所』がどのような神経回路を介して海馬で表象されるのかは極めて興味深い疑問である。本研究課題ではさらに、前頭前野から同時に神経活動記録を行い、オプトジェネティクス技術を応用して、他者の場所認知に必須の神経回路を同定する計画である。本研究で用いている行動課題では、観察行動の際に前頭前野の神経活動が海馬の『他者の場所細胞』の発火に関わることが予測される。これを明らかにするために、前頭前野での神経活動を同時に記録し、海馬の『他者の場所細胞』と前頭前野の『他者関連細胞』の発火パターンの相関性を解析する。さらに前頭前野の錐体細胞にハロロドプシンを発現させ、行動課題中に光刺激を行うことによって前頭前野の活動を抑制し、行動課題正答率への影響を調べる。例えば、他者の行動を観察している期間に神経活動抑制を行ったときのみに行動課題の成績が低下すれば、前頭前野の神経活動が行動課題の実行に必須であるということができる。その際、海馬の『他者の場所細胞』の発火がどのように変化するかを解析し、『他者の場所細胞』の発火も抑制された場合は、『他者の場所細胞』の発火が前頭前野での神経活動を介しているということが示唆される。これらの実験を通して、『他者の場所』の表象に関わる神経基盤を明らかにする計画である。
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