研究実績の概要 |
クロマチンの動的な構造制御にはヘテロクロマチン形成が重要な役割を果たしており、これにはHP1(heterochromatin protein 1)を含むヘテロクロマチン結合複合体が関与している。HP1は、遺伝子発現制御だけでなくDNA損傷応答や染色体分配にも関与しており、ゲノムの安定性全般を制御していると考えられる。我々はHP1と複合体を形成する新規分子CAMP(chromosome alignment-maintaining phosphoprotein)が、染色体分配に必須であることを明らかにした(EMBO J 2011)。CAMPはHP1の他にDNA損傷応答に関与するRev7, 染色体分配に関与するPOGZと複合体を形成しており、我々は本領域においてCAMPを含む複合体がDNA損傷応答と染色体分配にはたらいていることを明らかにしてきた(H26~H27新学術領域研究)。本研究では、これまでの成果をふまえ、CAMPを含むヘテロクロマチン結合複合体がゲノム安定性に果たす役割を、構造生物学的解析にもとづいて細胞及び個体レベルで明らかにすることを目的とする。H29年度には以下のような成果が得られた。 1. CAMPとRev7, HP1, POGZとの複合体の構造解析 CAMPとRev7の複合体の結晶構造を解析し、その結合様式を明らかにした(J Biol Chem, 2017)。 2. CAMPを含む複合体の機能の細胞レベルでの解析 CAMPの発現抑制細胞はcamptothecinに対して高感受性であるという平成28年度の結果をふまえ、CAMPのDNA2本鎖切断の修復に関する機能を調べた。その結果、CAMPはDNA2本鎖切断のend resectionを促進することにより、相同組み換えに関与することが示唆された。 3. CAMPを含む複合体の機能の個体レベルでの解析 小児の発達障害でCAMPの変異が見られる(Hum Mutat, 2016)という平成28年度の結果をふまえ、CAMPノックアウトマウスの解析を行った。その結果、CAMPが胎児脳で発現していることが明らかになった。
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