線状染色体の末端に存在するドメインである「テロメア」は、染色体構造維持、細胞寿命などにおいて、必須の役割を果たしている。一方、テロメアに隣接して「サブテロメア」と呼ばれる領域が存在する。サブテロメアは真核生物で広く保存されている染色体ドメインであるにも関わらず、DNA配列が完全に決定されていない、染色体から簡単に取り除くことができない等の実験手法的困難から、その機能がほとんど明らかにされてこなかった未開の地である。しかし、我々は最近、細胞周期のM期にセントロメアに局在して正確な染色体分配に必要なShugoshin 2 (Sgo2)タンパク質が、間期にサブテロメア全体にリクルートされ、サブテロメアヘテロクロマチンとは異なる高度に凝縮したクロマチン構造(knob)の形成を誘導するとともに、サブテロメア遺伝子発現維持、DNA複製タイミング維持に寄与することを明らかにした。本研究では、サブテロメア機能の制御機構をさらに詳しく探るため、サブテロメア遺伝子の発現異常を示す突然変異株のスクリーニングを行った。その結果、約500株のサブテロメア遺伝子発現異常株を取得することができた。それらの中から表現型が特に強かった株の変異部位を調べたところ、Clr6を中心としたHDAC複合体のサブユニット群の遺伝子に変異が入っていることがわかった。その中でもNts1に着目して解析を行ったところ、野生株ではサブテロメアのH4のアセチル化レベルが低く抑えられているが、nts1破壊株では顕著に上昇した。さらに、nts1破壊株では、Sgo2のサブテロメア局在が部分的に阻害され、knob形成も部分的に阻害された。これらのことから、ヒストンのアセチル化がサブテロメア特異的なクロマチン構造の維持に重要であることが明らかになった。
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