公募研究
ヌクレオチド除去修復のDNA損傷認識因子であるXPCタンパク質が、マウス細胞においてヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)とともにpericentric heterochromatin(PHC)に局在することが見出されていた。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤処理によってXPCとHP1のPHC局在がともに消失する一方、Suv39h1/2の発現抑制実験から、XPCのPHC局在はヒストンH3K9のトリメチル化修飾(H3K9me3)には依存しないことがわかった。また、色素性乾皮症患者から同定された病因性アミノ酸置換変異W690SをXPCに導入してもPHC局在が維持されていたことから、XPCのDNA結合活性がPHC局在に必須ではないことが示された。一方、XPCがヒストンH3及びヒストンH1と直接相互作用することを、ファーウエスタンブロット法及びプルダウン実験により示した。さまざまなXPCの欠失変異体を作製し、XPCのN末端近傍の領域が両方のヒストンと相互作用しうること、XPCのC末端ドメインにヒストンH3と相互作用する別の領域が存在することがわかった。非常に興味深いことに、N末端テールを欠失したヒストンH3はXPCとの相互作用を失っており、また試験管内でヒストンH3をアセチル化するとXPCとの相互作用が減弱することがわかった。さらにアイソポアメンブレンフィルターを用いた局所紫外線照射とヒストン修飾特異的な抗体を用いた免疫蛍光染色により、DNA損傷部位においてヒストンの脱アセチル化が誘導される可能性を示した。以上の結果を総合すると、XPCのPHC局在を規定しているのは主に非アセチル化ヒストンH3やヒストンH1との相互作用であり、DNA損傷部位近傍でこれらの特徴を持つヘテロクロマチン様構造が形成されることでXPCの損傷部位への呼び込みが促進されている可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初研究計画のうち、XPCのヘテロクロマチン局在を規定する要因については、ヒストン脱アセチル化酵素活性に対する依存性、Suv39h1/2を介したヒストンH3K9me3修飾やXPC自身のDNA結合活性に対する非依存性を証明し、HP1とは基本的な分子機構が異なることを明らかにできた。さらに、XPCとヒストンの直接相互作用の解析では、XPCにおける複数のヒストン相互作用部位の同定、ヒストンH3のN末端テールのアセチル化を介した相互作用の制御を示す重要な知見を得た。紫外線照射部位において実際にヒストンの脱アセチル化が誘導されることを示唆する実験結果と合わせ、研究開始当初の予想と合致して、ヘテロクロマチン様構造の形成がXPCによるDNA損傷認識過程に対して促進的な効果を持つ、というモデルを支持する結果が蓄積されている。これらの研究成果の一部は既に論文発表を行っており、研究はおおむね順調に進展している。
XPCと脱アセチル化ヒストンH3やヒストンH1との直接相互作用が見出されたことから、これらの因子のゲノムワイドな分布を免疫蛍光染色と超解像顕微鏡による観察、あるいはクロマチン免疫沈降シーケンス解析等を駆使して詳細に比較解析する(これらの解析は領域内共同研究により実施する)。また、ヒストン脱アセチル化酵素の発現抑制を個別に行って、どの酵素がXPCによるDNA損傷認識やその後のNER反応に関わっているのかを明らかにするとともに、その酵素をゲノム上の特定の領域にテザリングすることで実際にヒストンの脱アセチル化やXPCの局在化が誘導されるかどうかを調べたい。並行して、細胞内でヘテロクロマチン領域がNERの場として機能している可能性を検証する。マウス細胞においてPHCを含む領域に局所紫外線照射を行うことで、NER経路におけるXPCの下流因子であるTFIIHやXPAがPHCにリクルートされるかどうかを調べる。また蛍光タンパク質とヒストンの融合タンパク質を発現する細胞を用い、紫外線で損傷を受けたクロマチン領域のヘテロクロマチン化、もしくはPHCへの移動・融合が起こる可能性を検討する。これにより、クロマチン動構造を介したDNA損傷認識・修復制御に関する新たなモデルの創出を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://www.research.kobe-u.ac.jp/brce-sugasawa/