公募研究
本研究では「病態進行過程におけるクロマチン構造の動態変化」をキーワードに、二つのテーマを推進している。一つ目のテーマでは、マウスの精巣特異的ヒストンH3バリアントであるH3tに着目し、クロマチン構造が大規模に変動する精子形成過程においてH3tがどのような役割を担っているのかを明らかにすることを目的としている。これまでの解析から、H3tは未分化型精原細胞や精子幹細胞の維持には必要ないが、精原細胞が分化し、減数分裂に移行するために必要であることを明らかにした。また、早稲田大学の胡桃坂仁志教授のグループの解析によって、H3tを組み込んだヌクレオソームはcanonicalなH3であるH3.1を組み込んだヌクレオソームに比べて開いた構造を取っていることが結晶構造並びに生化学的解析によって明らかとなった。これらの結果は論文として発表した(Ueda, J., et al., Cell Reports, 2017)。現在はこの続きの仕事として、九州大学の大川恭行教授のグループとの共同研究によって、「精子幹細胞の分化誘導実験系を用いたヒストンH3バリアントのChIP-seq解析」を行っている。二つ目のテーマでは、メチル化DNAを可視化したレポーターマウス「メチロー」を用いて、腫瘍形成過程にメチル化DNA及びヘテロクロマチン構造がどのように変動するかを解析している。メチローマウスと発がんモデルマウスを用いた解析から、特徴量として使えそうな候補指標がいくつかあることが明らかとなった。平成28年度は、中部大学の岩本隆司教授、岩堀祐之教授との共同研究によって、腫瘍切片のヘマトキシリン・エオシン染色(明視野)画像から細胞核を抽出する方法の開発を行った(Tsukada, Y., et al., Submitted)。
2: おおむね順調に進展している
H3tの機能解明までは到達していないが、途中経過として論文発表を行うことができた。また、機能解明に繋がりそうな共同研究が始まっていることから、このような自己評価とした。
【テーマ1.精巣特異的ヒストンH3バリアント、H3tの精子形成過程での役割の解明】平成29年度は、九州大学の大川恭行教授のグループとの共同研究によって、「精子幹細胞の分化誘導実験系を用いたヒストンH3バリアントのChIP-seq解析」を継続して行う。H3tの論文発表後、海外から共同研究の依頼があり、共同研究をスタートした。今後はH3t特異的なヒストン・コードが存在するか否かを明らかにしていくことで、H3tが精子形成過程においてどのような役割を果たしているかを明らかにしていきたいと考えている。このことを実現するために、精巣組織からH3tをプルダウンした後にプロテオーム解析を行うことを計画している。精巣組織からのH3t複合体の精製及びプロテオーム解析については、基礎生物学研究所の中山潤一教授のグループと共同で進めることを予定している。最終的に、H3tがどのように精子形成過程に寄与しているのか、その分子メカニズムを明らかにしたいと考えている。【テーマ2.メチローマウスを用いた発がん過程でのヘテロクロマチン構造変化の動態解析】平成28年度は、中部大学の岩本隆司教授、岩堀祐之教授との共同研究によって、腫瘍切片のヘマトキシリン・エオシン染色(明視野)画像から細胞核を抽出する方法の開発を行った(Tsukada, Y., et al., Submitted)。今後は、明視野画像から抽出した細胞核からがん細胞に特有の核内構造の特徴量を抽出し、非腫瘍と腫瘍を区別するための方法(診断法)を開発することを計画している。また、メチローマウスと発がんモデルマウスを用いた解析から、特徴量として使えそうな候補指標がいくつか見付かったので、それらが明視野画像でも有効であるかを検証する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Cell Reports
巻: 18 ページ: 593-600
10.1016/j.celrep.2016.12.065.
Scientific Reports
巻: 55 ページ: -
10.1038/s41598-017-00136-5.
Journal of Molecular Biology
巻: 428 ページ: 3885-3902
10.1016/j.jmb.2016.08.010.
http://researchmap.jp/wiz/?lang=english