公募研究
カエル卵母細胞中に移植された哺乳類体細胞核は、卵由来のクロマチン結合タンパク質を取り込み、最終的に抑制遺伝子が活性される(転写のリプログラミング)。転写のリプログラミングは階層的なクロマチン構造の変化によって誘導されるのだが、卵子由来RNAポリメラーゼが体細胞核に取り込まれてからその活性化が起こるまで半日以上の時間を要し、リプログラミングの律速段階となっている。興味深いことに、RNAポリメラーゼの活性化と時期を同じくして核アクチンの重合化が誘導される。本研究では、光遺伝学の手法を用いて核アクチンの重合化を時空間的に制御し、核アクチンがクロマチン構造に与える影響並びにリプログラミングの律速解除への貢献を明らかにする。平成28年度は、卵母細胞へ移植後の体細胞核において、核アクチン重合化を光刺激によって制御する手法を発展させた。アクチン重合化を促進する因子として知られるRac1に、「LOV(light, oxygen, voltage domain)ドメイン」を融合したLOV-Rac1は、Rac1のアクチン重合化活性がLOVドメインによって阻害されている。しかし、光刺激を加えることによりLOV-Rac1の立体構造が変化し、Rac1のアクチン重合化活性が復元する。LOV-Rac1をカエル卵母細胞核内に過剰発現し、さらに体細胞核を核移植することで、リプログラミングを受けている最中の体細胞核において、核アクチンの重合化を光刺激に応じて時期特異的に誘導することが可能となった。即ち、転写リプログラミングを光刺激で制御する新規性の高い実験系を構築したといえる。また、光刺激実験系の構築とは別に核アクチン重合化の生物学的意義も解析を進めており、クロマチン構造の変化における新規機能も見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度は当初の計画通り、光遺伝学的手法による核アクチン重合化の制御システムの構築を行った。その結果、光刺激を加えることにより活性化するLOV-Rac1をリプログラミング最中の核に誘導することに成功した。システムの立ち上げに成功した為、クロマチン状態・転写状態の変化といった現象は、当該システム上で今後評価可能となる。従って、当初予定した研究計画の遂行は概ね順調に進展していると判断する。また、当初の研究計画とは別に、核アクチン重合化の新機能をクロマチン凝縮制御に見出した。核アクチンの新機能発見に到達したという面で、研究が予想以上に進展しているといえる。本発見に関する学術論文を投稿し、現在査読中である。当初予定していたカエル核移植卵でのRNA-seq解析も、この予期せぬ新機能発見を探求する実験のため平成29年度実施へと変更した。これに伴い、平成28年度に「その他」の項目として計上していたRNA-seq用の予算を物品費に使用した。
光遺伝学手法によって核アクチン重合化を制御するシステムの構築を試み、カエル卵母細胞核内におけるLOV-Rac1の発現により、核アクチンの重合化を光刺激に応じて変化させるシステムを立ち上げた。また、核アクチン重合化がクロマチン構造に与える影響を調べる過程で、クロマチンの凝縮状態に核アクチン重合化が及ぼす影響を明らかにした。以上の成果を踏まえて、以下に示す2つの方針で研究を計画する。(1)光遺伝学的手法を用いた、転写リプログラミングにおける核アクチン重合化の機能解明カエル卵母細胞核へと移植した体細胞核に転写リプログラミングが誘導される過程において、体細胞クロマチンに結合したRNAポリメラーゼがリン酸化されるまで長い時間を要し、転写リプログラミングの律速段階となっている。そこで、作製したLOV-Rac1を用いて、核アクチン重合化をリプログラミングの様々な段階で変化させ、RNAポリメラーゼがリン酸化に要する時間の変化やクロマチン構造を調べ、アクチン重合化が転写に及ぼす影響をクロマチンレベルで明らかにする。また、当初の計画通り、Lac repressor-operatorシステムを利用して、Oct4遺伝子上に特異的にアクチン重合化の誘導も試みる。(2)初期胚核内構造の形成における核アクチン重合化の役割動物の発生過程において、最も顕著なクロマチン脱凝縮は受精直後の生殖細胞核に誘導される。クロマチンの凝縮状態に関与する核アクチン重合化が、受精直後の核形成にも関わっていると仮説を立て、それを検証する。実験の実施にあたって、光遺伝学のツールも活用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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