研究領域 | 動的クロマチン構造と機能 |
研究課題/領域番号 |
16H01323
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
新冨 圭史 国立研究開発法人理化学研究所, 平野染色体ダイナミクス研究室, 研究員 (60462694)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 染色体 / ヌクレオソーム / カエル卵抽出液 / Asf1 |
研究実績の概要 |
分裂期染色体は、ヌクレオソーム形成を出発点とするクロマチン繊維の階層的な折り畳みの産物であると考えられている。しかし、染色体を作るためにヌクレオソームが本当に不可欠なのかという問題に対しては十分な検証がなされてこなかった。そこで、私は、もともとヒストンを含まないマウス精子核とカエル卵抽出液を組合せて、試験管内で染色体構築を再現できる無細胞系を考案した。ヒストンH3-H4のシャペロンであるAsf1を除いた卵抽出液を用いると、精子DNA上へのヒストンの供給が起こらなくなることを見出した。この条件で形成した染色体の結合タンパク質を、質量分析計を用いて網羅的に調べたところ、すべてのコアヒストンとリンカーヒストンが検出されなかった。それとは対照的に、ヒストン以外の主要な染色体構成成分(コンデンシンIとII、トポイソメラーゼII)の種類や量に大きな変化が見られなかった。さらに興味深いことに、ヌクレオソームのできない条件にもかかわらず、コンデンシンに依存して染色体様構造が作られた。このヌクレオソームを含まない染色体を詳細に観察すると、コンデンシンが集積した明瞭な軸構造を持つものの、通常のヌクレオソームを含む染色体と比べてループ領域の凝縮の程度が低く、構造的に脆弱だった。さらに、Asf1とコンデンシンⅠとⅡのいずれかを除去する実験によって、コンデンシンⅡはヌクレオソーム非依存的に染色体軸に集積するのに対し、コンデンシンⅠの正常な機能にはヌクレオソームとコンデンシンⅡの両者が必要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来の方法では、カエル卵抽出液にカエル精子核を加えることによって、染色体構築プロセスを再現する。しかし、この方法では、カエル精子核がもともとヒストンを含んでいるため、染色体上のヒストンをなくす実験は実質的には不可能であった。そこで、ヒストンをほぼ完全に失ったマウス精子核をカエル卵無細胞系に導入する方法を開発した。さらに、卵抽出液中に極めて高濃度で存在するコアヒストンそのものを除くことは技術的に難しいので、その代替法として、ヒストンとDNAの結合調節因子(ヒストンシャペロン)のひとつであるAsf1を除くことによって、ヌクレオソーム形成を完全に阻害できることを見出した。この2つのユニークなアイデアによって、分裂期染色体構築におけるヌクレオソームの役割という積年の課題に対して独自の視点から検討を加えられた。さらに、この結果は、染色体をクロマチンの階層的折りたたみの産物だと考える、従来のモデルに再検討を促すものである。以上の点を考慮すると、本年度中に見られた研究の進展は予想を超えるものであったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度中に新規に開発した方法によって、ヌクレオソームを含まない染色体を作ることには成功した。さらにヌクレオソームやコアヒストンの役割を調べるには、変異体ヒストンやヒストンバリアントに置き換えた実験が必要であると考えている。そこで、精製タンパク質とマウス精子核を使って、ヌクレオソームアレイを調製する方法を開発する。変異体ヒストンを含む種々のヌクレオソームアレイが調製できるようになれば、それらをAsf1を除いた卵無細胞系に導入し、ヌクレオソームの役割のより詳細な理解を目指す。さらに、この方法を転用し、DNA複製や修復などにおけるヌクレオソームの機能を解析するための準備も進めたい。
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