神経発達障害を含む脳疾患の非侵襲的な治療法として、運動の有効性が注目されている。しかしながら、運動を行動に反映する分子細胞生物学的メカニズムの解明は後手を踏んでいる。そこで、我々は、母体免疫活性化(MIA)によって子に生じるMIA関連性行動異常に運動が有効な可能性と、その分子細胞生物学的メカニズムを明らかにすることを目的とした研究を行った。ウィルス感染を模倣したMIAを誘導するため、妊娠マウスにpoly(I:C)を投与した。その結果、このマウスより産まれた仔では、社会性の低下や常同行動の顕在化、そして不安行動の増加などのMIA関連性行動異常が成体期に顕れた。そして、これらのMIA関連性行動異常は、飼育箱に車輪を入れ、自発的に30日間運動をさせることによって抑制された。本研究では、歯状回顆粒細胞層の軸索である苔状線維の興奮性シナプスに着目した。その結果、MIA群では、発達期におけるシナプス除去が阻害される結果、成体期においてコントロール群よりもシナプス数が上昇していた。さらに、このシナプス数の上昇は運動によってコントロールレベルにまで低下することも明らかになり、運動による積極的なシナプス除去機構が働く可能性が示唆された。そこで、貪食によってシナプス除去を行うマイクログリアの動態に着目した。まず、発達期において、MIA群の海馬CA3野では、マイクログリアによるシナプス貪食がコントロール群より低下していた。さらに、成体期においてもMIA群のシナプス貪食は低下していたが、運動を行うことにより、シナプス貪食はコントロールレベルにまで回復した。なお、運動による効果はマイクログリア活性化を抑制するミノサイクリンの投与で阻害された。以上の結果は、成体期の運動による神経回路再編成に、マイクログリアが関与する新規メカニズムを提唱するものである。
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