公募研究
グリア病である神経障害性疼痛は、精神的ストレスや精神疾患との関連性が臨床上指摘されている(うつを伴う慢性痛、統合失調症や自閉スペクトラム症での痛覚鈍麻など)。しかし、この「精神と疼痛(痛み)」の関連性(連関)の分子基盤は未解明である。本研究では、睡眠障害やうつ等の精神疾患に関連性が深い時計システム(体内時計)に注目し、「体内時計によるグリアネットワークの制御」という観点から、この「精神と疼痛」の謎に挑んだ。我々の解析結果より、睡眠障害等の精神疾患との関連性が深い体内時計システムが破綻したマウスでは、脳・脊髄組織でのアストロサイトの異常活性化が認められた。同マウスにて行動学的解析を実施した結果、多動といった精神行動異常が観察されただけでなく、神経障害性疼痛モデルを実施した結果、神経障害時における疼痛(アロディニア)が完全に消失していた。時計システム破綻に伴うグリアネットワークの破綻が、如何にして、特定の神経回路と情報伝達様式の変化を起こし、個体での異常な行動・疼痛発現に至るのかを、「①分子」、「②シナプス」、「③回路・個体レベル」において横断的に解析する。本年度は、グリアネットワークの破綻に伴う出力因子の探索を行った結果、特定のサイトカインについて、時計遺伝子の破綻に伴い青斑核において発現が上昇していることを見出した。発現上昇が脳幹に限局しているため、当該分子の発現上昇メカニズムを起点とすることで、時計システム破綻に伴うグリアネットワークの破綻が疼痛機能変化、精神機能変化を引き起こす可能性を検証する糸口となる。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的であったグリアネットワークの破綻に伴う出力因子候補を突き止めることができた。ただし、異動に伴いマウスコロニーを一から拡大する必要性があったため、解析用のマウス数を十分に用意できていないことが現在の課題である。
今後は、出力分子の上昇している細胞種を同定し、その発現上昇メカニズムを解析する。また特定の神経核での神経変化が、疼痛機能変化、精神機能変化を引き起こす可能性を電気生理学的に検証する事も可能である。また、同成果を基にして、グリアネットワークの破綻した体内時計システム破綻マウス(Bmal1欠損マウス)に、薬理遺伝学(DREADD)や光遺伝学(Optogenetics)の技術を適用し、特定の神経回路を人為的に操作することにより、行動異常(多動)や疼痛異常(アロディニア消失)を起こす責任神経回路を同定することが可能である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件)
Glia
巻: 65 ページ: 198-208
doi: 10.1002/glia.23087.
J. Neurosci. Res.
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doi: 10.1002/jnr.23723.