研究領域 | グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 |
研究課題/領域番号 |
16H01333
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 郁恵 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90219999)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | C.elegans / 温度走性 / AMsh glia 細胞 / CEPsh glia 細胞 / K+/Cl- cotransporter |
研究実績の概要 |
当初の計画を遂行するために、光遺伝学的解析へ向けた線虫系統の作成を進め、R-CaMP2を発現させた線虫株を作成し、それらの株を用いて、感覚神経細胞、介在神経細胞の同時計測に成功した。R-CaMP2によるカルシウム計測はこれまで広く用いられているGCaMP系統に比べてSN比が低い点が欠点であったが、照明やカメラの調整により充分な計測が実施できることを確認した。これにより青色光をチャネルロドプシン専用に用いることが可能となり、光遺伝学を用いた神経・グリア細胞の機能解析に向けての技術基盤が整備された。 また、これまでに得られている、グリア細胞で機能するK+/Cl- cotransporter (KCC-3)の異常変異体と、遺伝的にグリア細胞を破壊した系統について、行動解析を行った。その結果、両者に共通してReversal turnと呼ばれる特徴的な行動要素が影響していることが示唆された。興味深いことに、このReversal turnの異常は、健常野生型個体が、加齢により増加する行動異常であることも示唆された。健常野生型個体は、加齢により、感覚末端の微絨毛構造の変化という形態異常も増加するが、グリア細胞を破壊した株も同様の異常を示す。したがって、加齢による影響が、グリア細胞の機能異常を通して神経細胞の形状や機能に影響を与えていることが示唆された。 加齢による神経細胞やグリア細胞の機能解析が進められた例はこれまでほとんど報告されていないため、本研究成果により、新たな実験系の確立と、それによる新しい知見を得ることが期待できる。蛍光プローブを用いたカルシウムイメージングやハイスループット行動実験解析システムを用いることで、グリア-神経細胞間の相互作用や、その行動制御への影響と、生理学的な意味をつなげた総合的な研究が進められることも期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チャネルロドプシンと青色光を用いた光遺伝学的解析を実施するため、緑色光で励起し、赤色蛍光により計測するカルシウムプローブであるR-CaMP2発現株の作成と、それによるカルシウムイメージングを実施した。感覚神経細胞であるAFDと、介在神経細胞であるAIYにR-CaMP2を発現させ、特定の温度刺激に対する蛍光変化の同時計測に成功した。カルシウムイメージングの蛍光測定に対する影響を最小限に抑えた光遺伝学解析が可能になったことにより、グリア神経細胞間の機能的な解析の基盤が整備された。 また、これまでに得られたAMsh glia細胞で発現・機能するK+/Cl- cotransporter KCC-3の機能欠失変異体の行動解析を詳細に進めるため、行動要素を詳細かつハイスループットに解析できるMulti worm trackerを用いて、KCC-3機能欠損の影響を受ける行動要素を解析した。さらにAMshグリア細胞をジフテリア毒素により破壊させた個体の行動要素もMulti worm trackerで詳細に解析し、それぞれReversal turnの発生頻度が上昇していることが分かった。グリア細胞の影響が最終的な行動要素の制御として、Reversal turnを制御している可能性が考えられ、これに関わる介在神経細胞の活動制御に関わる可能性も考えられる。 線虫の感覚神経細胞はAMsh グリア細胞に囲まれており、神経-グリア細胞間で様々な相互作用が行われていることが予想されている。このAMshグリア細胞が破壊されると感覚末端の微絨毛構造が失われることが知られていたが、最近、加齢によってもこの微絨毛構造が失われることが報告された。そこで加齢個体において行動を計測したところ、野生型健常個体が加齢した際にReversal turnの発生頻度が上昇していることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
数百個体を同時に解析するハイスループット実験系であるMulti worm trackerよる行動要素の詳細な解析から、行動要素のうちReversal turnにグリア細胞の影響が強いことが示唆されたため、同様の詳細な行動解析をさらに進め、蛍光カルシウムプローブを用いた神経活動の計測とともに機能解析を進める。同時に、これまでに樹立した緑色光により励起されるR-CaMP2を用いた計測と合わせて、青色光を用いたチャネルロドプシンによる活動制御実験を進める。 さらに、制御されている行動要素として可能性の高いReversal turnに関連の強い神経細胞であるAIY介在神経細胞やRIA介在神経細胞の活動計測を進める。CEPshグリア細胞はAIY神経細胞やRIA神経細胞に接しているため、CEPshグリア神経細胞が破壊された系統を用いてこれら介在神経細胞の活動計測を進めることで、感覚神経細胞周辺のグリア細胞の機能と、介在神経細胞周辺のグリア細胞の機能比較を進める。 また加齢による影響との関連性が示唆されたため、加齢による神経細胞の形態異常、機能異常とグリア細胞の破壊による神経細胞の形態、機能異常を比較することで、自然な状態におけるグリア細胞の健常性が、機能や形態にどのように影響を与えているかも視野にいれて研究を進める。加齢による行動表現型の変化とAMshグリア細胞を破壊した系統の行動要素の変化には共通点があることから、AMshグリア細胞が直接的に神経活動を制御している可能性の高い感覚神経細胞AFDについて、高齢個体における神経活動の計測も視野にいれる。
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