研究実績の概要 |
本研究では、免疫学的背景の異なる2種類のSOD1変異ALSモデルマウスを作成して、それらの分子病態を比較することを通じて、神経病態形成と末梢免疫反応との連関を明らかにすることを目的とする。 まず、末梢免疫背景の異なる細胞性免疫(Th1)優位なC57BL/6系統、及び液性免疫(Th2)優位なBalb/c系統の2種類のALSモデル(以下G93A(B6)、G93A(Balb))マウスを作成し、生存解析を行ったところ、G93A(Balb)マウスの平均生存期間は、G93A(B6)マウスに対して有意に短縮した (G93A(Balb): 199.1 days; G93A(B6): 224.6 days, n=17-18)。次に、病態への関与が予想される遺伝子群の脊髄における発現を比較し、ケモカインや神経栄養因子の発現が、G93A(Balb)マウスにおいて低いことが判明した。また、G93A(Balb)マウスでは、免疫細胞の脊髄内浸潤がほとんど起こらず、脊髄内の活性化ミクログリアの細胞数の増加が見られないことが判明した。その分子機序として、発症後のG93A(Balb)マウスにおいては、ミクログリア増殖因子の発現がほとんど上昇せず、また、ミクログリアの細胞死が亢進していることが判明した。一方、遺伝的背景による影響を検証するため、C57BL/6マウス及びBalb/cマウス由来の初代培養ミクログリアを比較したが、増殖因子の発現やその反応に差は見られなかった。 以上の結果から、G93A(B6)マウスとG93A(Balb)マウスにおけるミクログリアの表現型の差異は遺伝的背景によるものではなく、免疫反応など神経組織外の環境に由来することが示唆された。
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