研究領域 | グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 |
研究課題/領域番号 |
16H01340
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中西 博 九州大学, 歯学研究院, 教授 (20155774)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミクログリア / カテプシンS / 概日リズム / 社会行動障害 |
研究実績の概要 |
カテプシンSは脳内ではミクログリアに特異的に発現するタンパク質分解酵素として知られている。これまでカテプシンS欠損が概日リズム障害の発症に関与する可能性を示唆する研究成果を得ている。そこで本研究はミクログリアのナイトライフの実態を暴くことで概日リズム障害、さらには社会行動障害の発症メカニズムに切り込む。具体的には、(1)生体イメージングならびに網羅的トランスクリプトーム解析によりミクログリア機能の昼夜差の全容を明らかにする。次に、(2)カテプシンS を含む日内変動を示すミクログリア特異的機能分子の変調がスパイン密度ならびにシナプス活動の日内変化の破綻を引き起こし、概日リズム障害ならびに社会行動障害の発症・進展に関与する可能性を解析する。
まず、カテプシンS欠損が大脳皮質ニューロンのシナプス強度ならびにスパイン密度に及ぼす影響を解析した。その結果、大脳皮質ニューロンのシナプス強度ならびにスパイン密度の示す日内リズムはカテプシンS欠損により消失することが明らかとなった。さらに、3-コンパートメントチャンバー を用いて 野性型マウスならびにカテプシンS欠損マウスにおいて社会的インタラクション試験を行った結果、カテプシンS欠損マウスが社会行動障害を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)カテプシンS欠損が大脳皮質ニューロンのシナプス強度ならびにスパイン密度に及ぼす影響 ZT2(9時)ならびにZT14(21時)に大脳皮質スライス標本を作製し、パッチクランプ法により大脳皮質ニューロンより白質の電気刺激で誘発される興奮性後シナプス電流を記録しI-O curve解析を行った。その結果、野性型マウスにおいてZT14のI-O curveはZT2と比較して有意に左側にシフトしていた。一方、カテプシンS欠損マウスではZT14ならびにZT2のI-O curveはほぼ重なっていた。次に、ZT2ならびにZT14に蛍光標識した大脳皮質ニューロンのスパイン密度を計測した結果、野性型マウスではZT14におけるシナプス密度はZT2と比較して有意に高い値を示したが、カテプシンS欠損マウスでは有意な差は認められなかった。以上の結果より、カテプシンS欠損は大脳皮質ニューロンのシナプス強度ならびにスパイン密度の日内変化を消失させることが明らかとなった。
(2)カテプシンS欠損が社会行動に及ぼす影響 3-コンパートメントチャンバー を用いて 野性型マウスならびにカテプシンS欠損マウスの社会的インタラクション試験を行った。セッション1では1番目のチャンバーは空にし2番目のチャンバーにマウスを入れた。その結果、野性型ならびにカテプシンS欠損マウスはマウスにより関心を示したが、カテプシンS欠損マウスがマウスと過ごす時間は短い傾向にあった。セッション2では1番目のチャンバーにマウスを入れて慣らした後、2番目のチャンバーには新しいマウスを入れた。その結果、野性型マウスは新しいマウスにより関心を示したが、カテプシンS欠損マウスは関心を示さなかった。これらの結果よりカテプシンS欠損マウスが社会行動障害を示すことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
CAGE法を用いZT14(活動期)ならびにZT2(非活動期)におけるミクログリア特異遺伝 子に関する網羅的遺伝子発現解析を行う。予備実験では大部分のミクログリア特異遺伝子はZT2(非活動期) に増大することが明らかとなった。 ZT2(非活動期)に増大する遺伝子群としてはプリン受容体関連遺伝子、サイトカイン受容体関連遺伝子、貪食関連遺伝子、パターン認識関連遺伝子, ECM受容体関連遺伝子、内因性リガンド受容体関連遺伝子ならびに 細胞間接着因子関連遺伝子などが認められた。今後、ZT2(非活動期)に増大する遺伝子群 について転写因子結合配列探索ならびにモチーフ解析を行い時計遺伝子により直接制御される遺伝子群、コルチコステロンなどホルモンにより制御される遺伝子群ならびにその他の遺伝子群に分類し、ミクログリアの昼夜における反応を規制する分子的基盤の全容を明らかにする。
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