公募研究
ヒゲ感覚神経である眼窩下神経を切断することで末梢神経が損傷したマウスを作製し、損傷から視床回路改編が起きるまでの期間におけるミクログリア活性を免疫組織化学的手法によって調べた。損傷したヒゲ感覚の伝導路は、これまでに我々が確立してきた遺伝学的ツールを用いて可視化した。この結果、神経損傷後に視床回路改編が生じる術後5-6日より前の時期で、損傷経路特異的にミクログリアが集積することを見出した。損傷経路のPr5核では、手術の翌日からバレレット領域特異的にミクログリアの集積が見られた。このミクログリアの集積は損傷後3日の時点でほぼ最大に近くなり、その後、視床回路改編が引き起こされる損傷から1週間後においても持続していた。また、損傷経路のPr5核バレレット領域におけるミクログリアは活性化型に特有の細胞形態を有しており、免疫組織化学的手法を用いることで、高い貪食活性マーカー発現を示すこともわかった。これらのミクログリア集積や活性化は対照である非損傷経路のPr5核領域や、偽手術を施したマウス群においては有意に認められなかった。一方、回路改編の舞台である視床VPm核バレロイド領域では、Pr5核バレレット領域に見られたようなミクログリアの顕著な集積や活性化の指標となる細胞形態・貪食活性マーカーの高発現は認められなかった。以上の結果から、神経損傷に伴う視床回路改編には、VPm核よりも内側毛帯線維の起始核であるPr5核におけるミクログリア活性が強く関与していることが示唆された。このため、時期特異的なミクログリアの選択的除去を行うための新たな遺伝子改変マウス系統の導入を進め、ミクログリア活性の操作が直接的に視床回路改編へ作用するかを調べる実験を開始しつつある。
2: おおむね順調に進展している
神経損傷に伴う視床回路改編を誘導する因子として、ミクログリア活性に着目した。その結果、損傷後の回路改編に先んじて、損傷経路特異的にミクログリア活性が上昇することを見出した。また、神経損傷に伴う疼痛様行動を評価する行動実験系の立ち上げも試行している。当初の計画にあわせて研究が進捗しており、結果も得られつつある。従って、今後の研究のさらなる発展が期待できる。
平成29年度は、昨年度に得られた知見を元に、遺伝子改変マウスを用いて神経損傷前後の時期特異的にミクログリアを選択的に除去する手法を用いることで、ミクログリア活性の視床回路改編への直接的な影響を電気生理学的かつ組織学的に評価する。さらに、このミクログリア活性の遺伝的制御を用いて、ミクログリア活性の疼痛様行動への影響も行動学的に調べる。
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eNeuro
巻: 4 ページ: -
https://doi.org/10.1523/ENEURO.0345-16.2017
Neuron
巻: 91 ページ: 1097-1109
10.1016/j.neuron.2016.07.035