研究実績の概要 |
髄鞘は神経軸索を覆う絶縁性のカバーであり、脊椎動物はその進化において髄鞘を獲得することで神経伝達速度を飛躍的に上げた。一方で中枢神経系には海馬の苔状線維、小脳の平行線維、大脳基底核の線条体投射線維など意外にも多くの無髄神経が保存されているが、その機能的意義はほとんどわかっていない。本研究で私たちは(1)中枢神経系における新たな無髄神経の同定、(2)無髄神経特異的に分布する分子の同定とその機能解析、について検討を行ってきた。(1)については、まず無髄神経のマーカーとして電位依存性ナトリウムチャネルのサブユニットのひとつであるNav1.2を同定することができた。抗Nav1.2抗体でマウス脳切片を免疫染色すると、すでによく知られている無髄領域のほか、脳梁と分界条床核由来線維にもNav1.2陽性の線維が存在することがわかった。電顕および免疫電顕によって、これらのNav1.2陽性の線維が無髄線維であることを確認した。(2)では、遺伝子発現解析の結果からMyelin basic protein (MBP) のsplice variantのひとつであるGolli (gene expressed in the oligodendrocyte lineage)-MBPが無髄神経のひとつである線条体投射神経で発現していることを明らかにした。MBPは髄鞘の主成分となる蛋白質でありオリゴデンドロサイトで発現していることが知られているが、Golli-MBPは同じ遺伝子からつくられたにもかかわらず、神経、特に無髄神経を中心に分布している(Landry CF, 1996)。Golli-MBPを無髄神経特異的にノックアウトし機能解析を行うため、共同研究でFloxedマウスを作製している。今後このマウスを用いてGolli-MBPの無髄神経における役割について解析を進めていきたいと考えている。
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