本研究は、Th17細胞のマスター転写因子であるRORγtの脂質リガンドを同定し、Th17細胞分化における脂質代謝の役割を正確に理解することで、脂質・RORγtを標的とした新たな創薬ターゲット・診断ツールの構築を目的とする。平成29年度の一連の研究で、以下に示す3つの新知見を見出した。 1.RORγt脂質リガンドによるマウス病態モデル解析:ACC1の選択的阻害剤TOFAをマウスに投与することにより、Th17細胞依存的な自己免疫疾患マウスモデル EAE及びTh17誘導性の喘息病態が抑制されるか検討したところ、予想どおりEAE病態の劇的な改善が認められた。また、TOFAによるEAE病態の改善は肥満病態状況下においても同様に認められた。 2.RORγtの内在性リガンドとなる脂質代謝物の同定:これまでの研究実績により、RORγtの内在性リガンドとなりうる候補脂質代謝物は絞り込まれた。脂質代謝酵素の発現を基に、ACC1よりもさらに下流の酵素をゲノム編集技術により遺伝子欠損スクリーニングを行い、RORγtの機能を低下させる経路および、脂質代謝物を選別した。このスクリーニング手法を用いて酵素Xを欠損させたところ、RORγtの転写活性能および、Th17細胞分化能が著しく低下することが示された。 3.脂質代謝酵素X欠損マウスの解析:2の結果を基に、脂質代謝酵素X欠損マウスについて解析を行った。Cas9システムを用いた酵素Xの結果と同様に、酵素X欠損マウス由来のCD4 T細胞をTh17細胞分化条件下で培養したところ、Th17細胞分化能の低下が認められた。
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