公募研究
申請時における予備的な実験により、Gタンパク質共役型受容体の一種であるアデノシンA2A受容体について、ドコサヘキサエン酸をアシル鎖に含むリン脂質中で、Gタンパク質シグナル伝達活性が増大することを見出していた。本研究では、まずアラキドン酸とドコサヘキサエン酸をアシル鎖に含むリン脂質中で、シグナル伝達活性を比較した。その結果、アデノシンA2A受容体のシグナル伝達活性増大は、ドコサヘキサエン酸に特異的に生じることがわかった。アデノシンA2A受容体を、メタノール資化性酵母を用いてメチオニンメチル基を選択的に安定同位体標識した上で、ナノディスクの脂質二重膜に再構成し、核磁気共鳴(NMR)法を用いて観測をおこなった。その結果、アデノシンA2A受容体のメチオニンメチル基に由来するNMRシグナルを観測することに成功した。さらに、様々な部位にメチオニンを変異により導入した上で、同様のNMR解析をおこなうことにより、アデノシンA2A受容体の様々な部位の構造変化を検出するプローブを確立した。このように調製したアデノシンA2A受容体について、アラキドン酸とドコサヘキサエン酸をアシル鎖に含むリン脂質中で、NMR解析をおこなった。その結果、細胞内領域のメチオニンのメチル基に由来するNMRシグナルの化学シフトが、両者で顕著に異なることを見出した。このことは、これらのメチオニンを含むアデノシンA2A受容体の細胞内領域の構造が、アラキドン酸とドコサヘキサエン酸を含むリン脂質中で異なることを示している。
2: おおむね順調に進展している
脂質依存的なアデノシンA2A受容体の脂質依存的な構造変化を解析する過程で、当初の想定とは異なり、細胞内領域に顕著な構造変化が生じていることが示唆された。そこで、アデノシンA2A受容体の様々な部位にメチオニン残基を変異導入し、当初より多くのプローブを用いて構造解析をおこなった。その結果、脂質依存的なアデノシンA2A受容体の構造変化を明確にとらえることができた。当初の想定とは異なる結果であったが、計画を適切に変更することにより、目的を達成できたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
当初の想定とは異なる部位ではあったが、アデノシンA2A受容体の脂質依存的な構造変化を観測することに成功した。そこで、構造変化の描像を明らかにするために、溶媒常磁性緩和促進効果を利用して、溶媒露出度の変化を解析することが有効であると考えた。また、脂質が関わるGタンパク質共役型受容体のシグナル伝達としては、現在解析しているGタンパク質を介したシグナル伝達に加えて、Gタンパク質共役型受容体のリン酸化やアレスチンを介したシグナル伝達も重要であることから、これらの解析を進めることを計画している。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 33690
10.1038/srep33690
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 113 ページ: 4741~4746
10.1073/pnas.1600519113
http://ishimada.f.u-tokyo.ac.jp/public_html/index_j.html