研究実績の概要 |
平成28年度までに、アラキドン酸およびドコサヘキサエン酸を含むリン脂質中で、Gタンパク質共役型受容体の一種であるアデノシンA2A受容体の細胞内領域の構造が異なることを見出した。そこで、この構造の違いをより詳細に解析するために、核磁気共鳴(NMR)法を用いて、溶媒常磁性緩和促進効果を利用した、溶媒露出度の解析をおこなった。その結果、M232のメチル基の溶媒露出度は、アラキドン酸を含むリン脂質中と比較して、ドコサヘキサエン酸を含むリン脂質中では増大していた。このことは、ドコサヘキサエン酸を含むリン脂質中で第6膜貫通ヘリックスの回転角度が大きくなっていることを示している。以上の結果より、ドコサヘキサエン酸がアデノシンA2A受容体に特異的に相互作用することにより、第6膜貫通ヘリックスが回転した構造を安定化させることで、シグナル伝達活性を増大させる、という脂質依存的なシグナル制御の新たなメカニズムを提唱した。 当初の目的に加えて、脂質組成が重要なシグナル伝達である、Gタンパク質共役型受容体のリン酸化についても、そのメカニズムを解析した。β2アドレナリン受容体を、ナノディスクの脂質二重膜に再構成し、Gタンパク質共役型受容体キナーゼによるリン酸化をおこなった上で、NMR法により解析した。その結果、β2アドレナリン受容体のC末端領域がリン酸化されると、膜貫通領域と相互作用することで、膜貫通領域をアレスチンの結合に適した構造に変化させることがわかった(Shiraishi et al., Nat Commun, 2018)。本結果は、脂質二重膜中のGタンパク質共役型受容体を解析することで、初めて明らかになった現象であり、Gタンパク質共役型受容体のシグナル伝達における、脂質の重要性を示すものである。
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