研究実績の概要 |
CYP4V2遺伝子変異を持つクリスタリン網膜症患者3名から樹立したiPS細胞と、健常人3名から樹立したiPS細胞を用いて、網膜色素上皮細胞を分化誘導した。患者由来の網膜色素上皮細胞は、健常由来の網膜色素上皮細胞と比べて、6角形の形態が乱れ、細胞の大型化、細胞内色素の増加、細胞の空砲状の変性が見られた。また、死細胞率が高いことが明らかになった。また、患者由来網膜色素上皮細胞では、リソソームのpHの上昇に伴う機能障害がみられ、そのために、オートファジーの分解系の障害がみられることが明らかになった。 網羅的脂質解析にて、患者由来の網膜色素上皮細胞では、細胞内のコレステロールエステルが減少、糖セラミドが増加していることが明らかになった。さらに、細胞内の遊離コレステロールが健常と比べ増加していた。 細胞内遊離コレステロール減少作用があると報告されている薬剤を用いて、患者由来網膜色素上皮細胞の変性が抑制されるか検討した。その結果、シクロデキストリン誘導体である、HPBCD(2-hydroxypropyl-β-cyclodextrin), HPGCD(2-hydroxypropyl-γ-cyclodextrin)や、δトコフェロールに、細胞内遊離コレステロールの減少効果があり、リソソーム機能およびオートファジ―分解系の障害の改善、細胞変性の抑制効果があることが明らかになった。 一方、糖セラミドを減少させる作用のある、NBDNJ(N-butyldeoxynojirimycin)には、細胞変性抑制効果がないことが明らかになった。 以上より、今まで不明であった、クリスタリン網膜症の発症メカニズムが明らかになり、その治療薬候補が見出された。
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