公募研究
#臨床検体バンクからの健常群HDLならびに冠動脈疾患群HDLの精製:神戸大学循環器内科 臨床検体バンクより健常群血漿ならびに冠動脈疾患群血漿を取得し、超遠心法によってHDLを分取精製した。分取精製されたHDLの純度は、電気泳動後クマシー染色することによって確認した。#HDL由来脂質低分子代謝物(脂質メディエーター)の解析:重水素ラベル化脂肪酸を基質とし、分取精製されたHDLとincubationさせ、産生される重水素ラベル化脂質メディエーターをLC/MS/MS解析で定量することにより、HDL粒子の脂質代謝に対する酵素活性を評価した。具体的には1uMの重水素ラベル化アラキドン酸・エイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)を基質とし、HDL10ug(総蛋白量)と30分間incubationさせた。本実験により、HDL粒子は重水素ラベル化プロスタグランジン・ロイコトリエン・レゾルビン群を産生する酵素活性を持っていることが明らかとなった。さらに健常群ヒトHDLと比較して、冠動脈疾患群HDLではロイコトリエン(LTB4)生成量が高まっていることを見出した。HDL粒子に含有される蛋白質を評価すると、冠動脈疾患群HDLには5-lipoxygenase, LTA4-hydrolaseが含有されており、LTB4産生に必要な機構が備わっていると考えた。#HDL-細胞間相互作用の解明:マクロファージは、生体内において「掃除役」として働き、その機能や分化様式が生体における炎症収束に重要な役割を担っている。そこで本研究では、マクロファージを、健常群HDLならびに冠動脈疾患群HDL存在下で培養し、マクロファージから産生される脂質メディエーター・マクロファージ中の蛋白質発現・マクロファージの貪食能等に着目した機能評価を進めており、HDLの違いによるマクロファージ機能の差異を見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画では、平成28年度計画として「機能不全HDLに特徴的な脂質クオリティを明らかにする」という目標のもと、(1)臨床検体バンクからの機能不全HDLの精製(2)HDL構成脂質の解析(3)HDL由来脂質低分子代謝物(脂質メディエーター)の解析 を計画した。また、平成29年度計画として「再構成HDLを用いて、HDL機能の分子機序を解明する」という目標のもと、(4)人工再構成HDLの作製(5)膜脂質クオリティとコレステロール逆転送機能との関連を検証する(6)HDL-細胞間相互作用の解明 を計画した。現在の進捗状況では、計画(1)(3)はほぼ完了した。計画(2)に関しては、神戸大学のみでは脂肪酸解析・脂質メディエーター解析しか分析系が動いていない。このため、HDLリン脂質の包括的解析を領域内共同研究者に依頼し、解析を進める予定であり、当初計画よりやや遅れている部分である。一方、現在、平成29年度計画の(6)について、先行してデータ取得が進んでおり、この部分では、当初計画以上に研究が推進している。総合的に判断すると、進捗状況は概ね順調に進行しているものと判断できる。
#HDL構成脂質の解析:構成脂質としてのリン脂質・中性脂肪・コレステロールそれぞれの組成の多様性を機器分析により解析する。LC-MS/MSによる解析は、総括班との共同研究・技術指導の元に実施する。また構成脂肪酸の鎖長・不飽和度のみならず、位置異性体ならびに幾何異性体も脂質多様性においては重要な因子であることから、固相抽出によって分子種ごとに分取した後、GC/MSによる分析も実施する。神戸大学質量分析総合センターでは、高い分離能を示す脂肪酸分析用カラムを用いた脂肪酸解析が運用されている。GC/MSを用いた位置異性体・幾何異性体情報も含む脂肪酸分析は、LC-MS/MSによって得られる情報と相補的であり、より包括的な脂質クオリティ評価に有用である。#人工再構成HDLの作製:HDL構造蛋白(アポ蛋白)であるApo-AI蛋白と、任意の濃度・組成のリン脂質、コレステロールを組み合わせて再構成HDLが作製できる。リン脂質中に含まれるω6, ω3多価不飽和脂肪酸組成比、cis/trans脂肪酸組成比(オレイン酸/エライジン酸等)、リン脂質/コレステロール組成比を段階的に調整した再構成HDLを準備する。#膜脂質クオリティとコレステロール逆転送機能との関連を検証する:これらの再構成HDLを用い、さまざまな膜の脂質多様性を実験的に再現することによって、膜脂質クオリティがHDL機能にどのように関わっているか解明する。コレステロール逆転送機能評価に関しては篠原らがシスメックス株式会社と共同開発した系を用いて評価する。#HDL-細胞間相互作用の解明:マクロファージを、健常群HDLならびに冠動脈疾患群HDL存在下で培養すると、HDLの違いによるマクロファージ機能の差異を見出した。その機序の解明を今後進める方針である。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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