研究領域 | 脂質クオリティが解き明かす生命現象 |
研究課題/領域番号 |
16H01366
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
服部 光治 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 教授 (60272481)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳 / リーリン / 脂肪酸 / アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
脳の脂肪酸組成が他の臓器とは大きく異なることは古くから良く知られているが、その違いが生じるメカニズム、およびその生物学的意義の全貌は今なお未解明である。疫学的研究から、脳におけるDHAやEPAのような多価不飽和脂肪酸(poly unsaturated fatty acid, PUFA)の減少が、うつ・統合失調症・記憶障害などの精神神経疾患の一因または悪化要因であることが確実視されている。よって、脳内PUFA濃度を上昇させる(=脳内脂質環境を改善する)ことができれば、精神神経疾患を改善できる可能性が高い。 我々は脳の構造形成と機能発現におけるリーリンという巨大分泌タンパク質について研究してきた。リーリンの受容体は血清リポタンパク質と同一(ApoER2およびVLDLR)であり、これらを介して細胞内のリン酸化カスケードを調節する。我々は「受容体が血清リポタンパク質と同一だから、標的細胞の脂質組成にも影響するかもしれない」と考え、リーリン欠損マウス胎児脳の脂質組成を網羅的に解析した。その結果、非常に驚いたことに、リーリン欠損マウスの脳では膜リン脂質中のPUFA含有量が低下していた。しかも、PUFA不足を補うために補償的に合成される特殊脂肪酸のミード酸量が増加していた。すなわち、リーリンは神経細胞のPUFA量を上昇させる作用をもつことが強く示唆された。さらに、脳内ではリーリンの一部が何らかの脂質と結合して存在する可能性を見出した。このことは、リーリンがアポリポタンパク質として機能し得ることを示唆している。さらに、リーリン欠損脳において発現が変動する遺伝子を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子改変マウス脳の脂質分析に関しては一定のレベルに達し、リーリンおよび関連分子による脂質代謝制御への効果を結論できることができた。そのメカニズムに関しても、発現変動する遺伝子の発見およびリーリン分子自体の生化学的解析が進んだことで、より具体的な仮説を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
リーリン欠損マウス脳でPUFA含有量が低下することを説明する仮説として、(A)リーリン下流の細胞内シグナルが遺伝子発現等を制御する「リン酸化シグナリング仮説」、(B)リーリン・脂質複合体が取り込まれ細胞内脂質量に影響する「リーリン=アポリポタンパク質仮説」、の二つが考えられる。どちらが正しいかを検証するため、まずDab1欠損マウス脳のPUFA含有量を分析する。もしDab1欠損マウスの脳でPUFA含有量が減少していれば、その下流で何らかの遺伝子発現または酵素活性等が変化していると想定できる。 リーリン欠損マウス脳で発現が変動する脂質代謝関連分子について、発現部位およびその脂質組成変化への寄与を解析する。 我々が作製したリーリン機能低下ウスは、樹状突起構造および行動異常を呈する(J. Neurosci. 2015, Sci. Rep. 2016)。このマウス脳のPUFA含有量をLC/MS/MSおよびGC/MSを用いて調べる。また、脳切片を用いる質量分析イメージングにより、PUFA含有量が変動する部位を解明する。 リーリンの分解不活化酵素ADAMTS-3欠損マウス脳ではリーリン機能が亢進するとともに、樹状突起発達も増大する(J. Neurosci. 2017)。このマウス脳のPUFA含有量をLC/MS/MSおよびGC/MSを用いて調べる。また、質量分析イメージングにより、PUFA含有量が変動する部位を解明する。
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