公募研究
GPx4は生体膜のリン脂質ヒドロペルオキシドをグルタチオン依存的に還元する酵素である。GPx4欠損MEF細胞や心臓特異的GPx4欠損マウスは脂質酸化を伴った新規細胞死が誘導されるが、ビタミンEの添加により新規細胞死が抑制できる。このように生体膜の酸化リン脂質の生成(オキシリポクオリティ)の変化は細胞死などの細胞機能に影響を与える。本研究では、リン脂質ヒドロペルオキシド(PCOOH)がどのように細胞死などの細胞機能に影響を与えるか、また生体系はどのような酸化リン脂質の代謝機構によりオキシリポクオリティを制御しているのかを明らかにするために、主に重水素型のリン脂質ヒドロペルオキシドの合成系の構築とその代謝機構について解析を行った。まずGPx4欠損細胞死において遺伝子の発現の上昇が見られたスフィンゴミエリン合成酵素(SMS)2を、高発現した細胞を作成したところ、GPx4欠損細胞死を抑制できることを見出した。この機能はSMS1には見られなかった。またSMS2活性中心の変異体は致死抑制効果がないことから、SMS活性が必要であることが明らかとなった。重水素型PCOOHを用いてSMS活性を測定したところ重水素型SMに変換できることが確認できた。この酸化リン脂質代謝活性はSMS1にはなかった。このことからSMS2が新規の酸化リン脂質代謝酵素であることを初めて明らかにできた。また重水素型PCOOHの効率の良い合成系も構築できた。さらにオキシリポクオリティ変化による細胞機能解析ツールとして、これまで困難であった心筋初代培養GPx4欠損細胞の協調的拍動機能解析モデルの構築に成功した。心筋細胞の協調的拍動形成や拍動維持にはGPx4あるいはビタミンEが必須であることから、オキシリポクオリティの変化は心筋拍動に重要な影響を与えることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
重水素型PCOOHを用いた酵素ライゼートを用いたフラクソーム解析から、酸化リン脂質の新たな代謝酵素としてSMS2を見出すことに成功した。PCOOHからSMへの変換活性は、同じファミリー分子であるSMS1には酵素活性がないことを見出した。SMS1やSMS2はPCをSMへ変換する活性を有するが、PCOOHを変換できるのはSMS2だけであることは極めて興味深い発見である。またこの代謝経路はこれまで全く報告されていない酸化りん脂質代謝系である。このように重水素型PCOOHを用いたフラクソーム解析が新たな酸化リン脂質の代謝系の発見に有用であることが証明できた。また重水素型PCOOHの新たな合成系の構築もできたため、研究は概ね順調に進んでいる。
重水素型PCOOHや重水素型PCを用いた多様な分子種の構築を進める。また重水素型PCの酸化による多様な酸化体を作成し、SMS2がどの酸化PC分子種を変換できるのか、特にPCアルデヒドやPCカルボン酸体の変換も可能であるのかについて解析を進める。また、実際に細胞に添加した際のフラクソーム解析も進め、PCOOHの新たな酸化代謝経路について明らかにしたい。GPx4欠損細胞死を制御できるLipo遺伝子のノックダウン細胞を用いて、重水素型PCOOHや重水素型PCの代謝にどのような影響が見られるのかについても解析を進める予定にしている。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
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