公募研究
膜蛋白質の構造・機能は、しばしばアラキドン酸(AA)などの脂質二重層内の微量脂質により調節される。その機構の解明には、機能発現の場である脂質二重膜内での構造生物学的解析が必須であるが、従来法では困難であった。我々は、脂質二重膜中の蛋白質の溶液NMR解析のために、MSP1というリポ蛋白質で脂質二重膜を円盤状に取り囲んだナノディスクへ膜蛋白質を再構成したNMR試料調製法を確立したが、MSP1のサイズがディスクサイズを規定するため、特定のサイズの蛋白質しか再構成できなかった。そこで本研究では、複数分子が会合することによってサイズ可変のナノディスクを形成できるNanodisc Scaffold Peptide (NSP)を用いて、個々の蛋白質に適した各種サイズを有し特定の微量脂質を目的の量を含有するナノディスク調製法を確立することを目的とした。本年は、37残基からなるNSPのN末端にHisタグと、HRV3C酵素切断部位を付加した発現系を作成し、大腸菌を宿主として大量発現・精製法の確立を試みた。その結果、目的タンパク質は不溶性画分に発現していたため、界面活性剤を添加したところ、不溶画分から可溶画分に移行したことから、大腸菌で発現させたNSPは脂質結合活性をもつことが示唆された。この可溶画分をNi-アフィニティカラムに吸着させ、界面活性剤を除去した上でカラムから溶出させたところ、高純度のHis-NSPが、大腸菌1L培養あたり約5 mgと非常に高い収量で得られた。この試料を濃縮し、HRV3Cプロテアーゼで切断した上で、HPLC精製を行い、高純度のNSPを得ることに成功した。得られたNSPを用いて、8回膜貫通型膜タンパク質複合体をナノディスクに再構成した。その結果、ゲルろ過によりディスクの形成は確認できたものの、膜タンパク質が再構成されたディスクの割合が非常に低かった。
2: おおむね順調に進展している
NSPは、これまで化学合成により調製されていたが、膜タンパク質の再構成には大量のNSPを必要とするため、また、NMR解析には重水素標識を施す必要があるため、低コストで十分量のNSPを得るために大腸菌での大量発現・精製法の確立を試みた。しかし、脂質結合能を有するNSPは、大腸菌を破砕して取り出そうとすると、大腸菌由来の脂質と結合してしまい、精製が困難を極めた。脂質除去法を確立したことで収量がある程度確保できるようになり、最終的にナノディスクの再構成に成功したことから、紆余曲折はあったものの、初年度は概ね順調に進展したと言える。
まず、大腸菌で発現したNSPの精製時に、脂質除去法の改善を行い、収率を最大化する。その上で、各種サイズの膜タンパク質を再構成し、再構成効率、粒子サイズの均一性、ナノディスクの安定性、NMRスペクトルの質などの性状解析を行う。また、調製したナノディスク内の脂質組成を分析し、膜タンパク質と相互作用する微量脂質が、目的量含まれているかどうか解析することにより、目的の脂質組成のナノディスク調製法を確立する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 11件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Nat. Commun.
巻: 8 ページ: 14523
10.1038/ncomms14523
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 37303
10.1038/srep37303
http://www.pha.keio.ac.jp/research/mfp/index.html