公募研究
ヒトの腸管には100兆個もの細菌が共生しており、この「腸内細菌叢」は未消化物を発酵分解し、多種多様な代謝物を産生することで、外付けの臓器とも呼ぶべき代謝系を構築している。腸内代謝バランスに影響を与える因子として食事に含まれる脂質が挙げられる。とくに脂肪酸の質の違いは炎症性腸疾患の発症・再発に関わるとされているものの、これらは経験則や疫学調査に基づくものであり、その分子メカニズムについては分かっていない。本研究では、宿主と共生細菌の相互作用が織りなす「生物間代謝経路」から生じる脂質代謝物に着目し、免疫調節活性物質を探索することを目的とする。本年度は、SPFまたは無菌マウス糞便由来のメタノール抽出物をSpePakC18カートリッジに付し、ヘキサン、ギ酸メチル、およびメタノールによる固相抽出を行った。このうちギ酸メチル画分に免疫調節作用が認められた。そこで、本画分をさらにHPLCにより分画を行い、活性フラクションの濃縮を行った。このうちSPF由来のサンプルでは活性が認められて、無菌マウスでは認められないフラクションが存在したことから、本フラクションに腸内細菌由来の免疫調節物質が含まれることが判明した。このような活性フラクションのLC-MS/MS解析を行ったところ、脂溶性ビタミンが豊富に含まれていた。腸内細菌はこれまで水溶性ビタミン(KやB類)を産生することが知られていたが、本研究より脂溶性ビタミンも産生することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画どおりに研究が進展している。
来年度以降も引き続き免疫調節物質の同定を進める。異なるカラムを用いてHPLC精製を行い、LC-MS/MSなどで構造を決定する。これまでの研究から、短鎖脂肪酸や脂質メディエーターはGpr40, 41, 43, 109a および120といったGタンパク共役受容体(GPCR)への結合を介して、生理活性を発揮する場合が多い。そこで、研究の発展によっては、同定した脂質代謝物について、オーファン受容体を含む約200種類のGPCRに対する結合活性のハイスループットスクリーニングを実施する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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