研究実績の概要 |
脳の最小機能単位であるシナプスは、シナプス伝達に関わる機能蛋白質が高度に集積する特殊な細胞膜領域からなる。蛋白質構成に加え固有の膜脂質構成がシナプスの微小膜環境を形成すると予測されるが、その脂質環境の本態や生理機能はいまだ不明である。これまでに私共は1)シナプス後膜(PSD)の足場蛋白質PSD-95のパルミトイル化脂質修飾が、PSD構成単位である“PSDナノドメイン”の形成を担うこと、2)シナプス膜に集積する蛋白質の多くが、高度かつ多重にパルミトイル化されていることを見出した。そこで本研究では、1) PSDナノドメインの脂質構成を解析し、他の膜ドメインの脂質環境との違い、2)パルミトイル化脂質修飾のON・OFFを担う酵素群がナノドメイン脂質環境に与える影響、シナプス機能における生理機能を明らかにして、シナプス機能発現における全く新しい制御機構の解明を目指す。今年度は、PSD-95のパルミトイル化サイクルの一翼(OFF)を担う脱パルミトイル化酵素としてABHD17A, 17B, 17Cを同定することに成功した(Yokoi, Fukata Y et al, J Neurosci, 2016)。また、パルミトイル化された蛋白質の量比(stoichiometry)を検出することができるacyl-PEGyl exchange gel shift法(APEGS法)を開発した。具体的には、パルミトイル化蛋白質のパルミトイル基を高分子ポリマー分子であるPEG分子と置換することにより、蛋白質のパルミトイル化状態(部位数と量比)を電気泳動上のバンドの移動度の変化として検出するという方法を構築した。本手法は固有の脂質環境とパルミトイル化蛋白質間の相互依存的な作用を検討していく上で、極めて有用な手法と位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)PSDナノドメイン微小膜環境の構成分子の解明 PSDナノドメインのパルミトイル化蛋白質構成と脂質構成の関連を明らかにするため、PSDナノドメインを他の膜ドメイン(シナプス外細胞膜や細胞内小胞膜)と区別して単離し、PSDナノドメインに集積する蛋白質群のパルミトイル化状態をAPEGS法にて定量し、他の細胞膜画分との違いを明らかにする。 2)PSDナノドメイン脂質環境におけるパルミトイル化脂質修飾関連酵素群の生理機能 ごく最近同定したPSD-95脱パルミトイル化酵素(ABHD17A, 17B, 17C)のノックアウトマウスの解析を進め、PSD脂質環境や、シナプス形成・可塑性に及ぼす影響を細胞レベル、個体レベルで明らかにする。
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