研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01374
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
西山 賢一 岩手大学, 農学部, 教授 (80291334)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タンパク質膜挿入 / MPIase / 糖脂質酵素 / 低温センシング |
研究実績の概要 |
タンパク質膜挿入反応は低温感受性を示す。低温下では膜の流動性が低下するため、タンパク質膜輸送が大きく影響を受けると説明されているが、その詳細は不明である。モデル生物大腸菌においては、SecYEG等の膜挿入に関わる因子の発現レベルは、低温下でもほとんど変化しない。一方、我々は、タンパク質膜挿入に必須の糖脂質MPIaseの発現量は、培養温度の低下に伴って5-10倍増加することを見い出した。MPIaseは糖脂質でありながら膜挿入反応を触媒する性質をもつため、「糖脂質酵素(Glycolipozyme)」という概念を提唱している。 SecYEGやYidCなどの膜挿入因子の変異株でMPIase発現量を調べた結果、一過的に増加する現象が観察されたが、時間経過と共に低温でのMPIase発現量の増加は観察できなくなった。このことは、タンパク質膜挿入の阻害がMPIase発現量の増加を誘発しているわけではないことを示している。 MPIase生合成酵素の同定を試みた結果、リン脂質生合成に関わるCdsAとそのホモログYnbBを同定した。CdsAやYnbBを枯渇させるとMPIaseが枯渇し、逆にCdsAやYnbBを大量生産するとMPIaseも増加した。このことは、CdsA、YnbBによる反応がMPIase生合成の律速段階であることを示している。CdsAのmRNAの発現量は、低温下で大幅に増加することを明らかにした。低温下でのCdsAのmRNA発現量増加に必要な領域を検索した結果、cdsA遺伝子の上流2箇所に低温誘導されると考えられるプロモーター領域を同定した。現在、このプロモーター活性化に必要な転写因子を検索している。この転写因子は、大腸菌における低温センシングに関与する温度計分子である可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MPIaseの生合成律速酵素CdsAの低温下での発現量増加が主に転写レベルでの制御であることを見出し、発現量増加にかかわるプロモーターを2箇所同定することができた。一方、低温下での発現量増加にかかわる転写因子の同定にまでは至らなかったので、「(2)おおむね順調に進展している。」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、CdsAの低温下での発現量増加に関わる転写因子の同定を最優先課題として実施する。さらに、YnbBにも低温下で発現量増加が見られるかどうか調べる。
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