研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01377
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 飛鳥 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (50525813)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 脂質 / TRPチャネル |
研究実績の概要 |
TRPチャネルはさまざまな刺激に柔軟に応答し生体の恒常性の維持に重要な役割を持つ。近年、TRPチャネルの活性化に影響を与える分子として脂質の重要性が指摘されている。このような脂質の多くは炎症などの刺激に応じて局所で生体膜から産生される。刺激依存的に産生されるさまざまな脂質分子がTRPチャネルの活性を制御し、温度感知システムの厳密な調節に寄与するもの想定されるが、脂質によるTRPチャネル制御の全体像はほとんどわかっていない。そこで、本研究において「TRPチャネルの活性に影響を及ぼす脂質の網羅的探索」を主軸に、「リゾリン脂質感受性を示すTRPV1とTRPA1のマスト細胞脱顆粒や肝炎発症への役割解明」を目指す。当該年度において、TRPチャネルの活性化を高精度かつ特異的に検出する検出法としてGタンパク質欠損HEK293細胞を用いたTGFα切断アッセイを構築した。この手法を用い、温度感受性の異なるTRPチャネルに対してリゾリン脂質と脂質化合物ライブラリーに対する応答をスクリーニングし、TRPチャネルを活性化する脂質を複数見出した。また、通常の培養温度である37°Cに加えて、高温(40°C)と低温(25°C)でもTRPチャネルの活性を評価することで、TRPチャネルの下流で活性化が誘導される膜型プロテアーゼ(ADAM10, 17)のうち、ADAM10がTRPチャネルの温度感受性を反映することがわかった。また、リゾホスファチジルセリン(LysoPS)の急性肝炎抑制作用についてTRPチャネルの阻害剤を用いて薬理学的な解析を行ったところ、TRPV1チャネル阻害剤が部分的にLysoPSの効果を抑制することができることを見出した。さらに、LysoPSのマスト細胞脱顆粒促進応答の受容体探索を狙ったラット腹膜マスト細胞の初代培養系に対するRNA干渉(siRNAエレクトロポレーション)の条件を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施項目「TRPチャネルの活性に影響を及ぼす脂質の網羅的探索」は培養細胞を用いた簡便な検出法を確立し、リゾリン脂質と脂質化合物ライブラリーに対するスクリーニングを実施した。また、この過程でTRPチャネルの下流でADAM10とADAM17が異なる温度感受性によって制御されることを見出した。また、実施項目「リゾリン脂質感受性を示すTRPV1とTRPA1のマスト細胞脱顆粒や肝炎発症への役割解明」においては、マスト細胞脱顆粒応答におけるTRPチャネル阻害剤の検討を行い、脱顆粒に関与するTRPチャネルを絞ることができた。今後、確立したRNA干渉法によりそれぞれのTRPチャネルの寄与を調べることができる。また、マウス急性肝炎モデルの肝炎発症抑制ではTRPA1, TRPV1チャネル阻害剤を用いて、TRPV1チャネルが関与することを見出した。さらに、領域内共同研究として、土居計画班員と概日リズムに関与するGPCRの解析の共同研究を始めるに至った。
|
今後の研究の推進方策 |
TRPチャネルの温度感受性に影響を及ぼす脂質の探索を引き続き行う。脂質スクリーニングでヒットが得られた場合、この脂質が体温変化により生体内でその量が変動するかどうかをLC-MSを用いて調べる。また、この脂質をマウス個体へ投与した際の体温変化に与える影響を調べる。温度変化による培養細胞の膜組成をLC-MSで評価するとともに、この細胞に発現させたTRPチャネルの活性を調べる。脂肪酸添加で上記の膜組成と同様の変化を起こした際に、TRPチャネルの機能変化が生じるか調べる。リゾホスファチジルセリン(LysoPS)およびリゾホスファチジルスレオニン(LysoPT)のマスト細胞脱顆粒促進作用と肝炎抑制作用へにTRPチャネルの寄与を評価する。
|